Home > Highlighting JAPAN >Highlighting Japan February 2015>地球温暖化対策

Highlighting JAPAN

previous Next

地球温暖化対策

電車が駅を動かす

回生電力を使用した供給(仮訳)


首都圏の地下鉄を運営する東京メトロが、2014年から電車の回生電力(regenerated power)を使って駅構内の電気機器に供給する仕組みを導入した。

電車がブレーキをかけた際に発生する電力を回生電力と呼ぶ。パンタグラフを介して架線へと戻った回生電力は、一般的に近くを通る他の電車を動かすのに必要な電力として利用され、鉄道の省エネルギー策として取り組まれてきた。

だが、近くを走る電車がいない場合には回生電力は使用されることなく、余剰が発生する。余剰が発生したまま発電が続くと、架線の電圧が過度に上昇して電車への電力供給に支障をきたしてしまうため、電車が発電を抑制してしまい、結果的に発電システム全体として無駄が生じるのだ。「この余剰分の回生電力の効率的な利用が課題の一つでした」と、東京メトロ電気部の万谷航太(まんたにこうた)氏は解説する。

この余剰回生電力はそのままだと直流電力だが、これを交流電力に変換し、駅の照明や空調、エスカレーターなどに使う電力として供給するのが、駅補助電源装置(Station Auxiliary Power Supply Unit)だ。電車が生み出した電力を無駄にすることなく、駅施設の電力として活かす仕組みである。

「この駅補助電源装置の画期的な点は、電力の交流化の技術ももちろんですが、そのサイズの小ささです」。万谷氏は電気の専門家として熱を込める。大きめのロッカー程度の大きさの装置は約15平方メートルの設置スペースしか必要とせず、これまでの鉄道電気事業で採用されてきたような部屋いっぱいの巨大な装置に比べてはるかにコンパクトだ。この小さなサイズのおかげで、導入も設置も楽になる。

実際、現在東京メトロで設置されている駅補助電源装置は、東西線妙典駅の線路脇にひっそりと位置し、いかにも駅の電力を供給している電源といったような大仰な印象は感じさせない。「線路脇に、人知れず、実はすごい装置が置いてあるんですよ」と、万谷氏は笑う。

2014年6月の導入以来の実績から、東京メトロは、駅補助電源装置の省エネ効果を1日当たり平均600kWhと公表している。これは一般家庭60軒の1日分の消費電力に相当する。現在の設置は一駅にとどまるが、この装置が普及すれば、かなりの駅施設の電力を電車が運行しながら発電してくれるというサイクルが実現するかもしれない。

設置第1号として妙典駅が採用された理由としては、機器設置スペースや、ブレーキをかけて効率的に発電するための線路の勾配、運行ダイヤなど、発電と電力回収に適した条件を備えていたからだという。好条件でなくとも機器設置が可能となるような発電・送電技術の向上が、今後の普及のポイントとなるだろう。

鉄道はもともと輸送力に対する環境負荷が比較的低く、エコな交通手段として知られている。東京メトロでは2020年度に向けた長期環境戦略『みんなでECO.』を策定し、2020年度の鉄道事業における総エネルギー使用量を2009年度実績より増加させないことを目標とした。駅補助電源装置導入の推進に加え、従来に比べて格段に走行用消費電力の少ない省エネ車両の導入や、東西線の駅舎屋根上の太陽光発電システム設置など、「東京メトロ自らのエコ化」を掲げて進めていく構えだ。




previous Next