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Highlighting JAPAN

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科学と技術

無駄をなくす

環境に優しく、水のいらないバイオトイレ

(仮訳)




山や災害時といった上下水道が整っていない環境では、後処理の大変さや臭い、衛生面など、トイレ問題が深刻だ。水洗トイレが整備されているとしても、使用するたびに大量の水が使われ、下水に流された汚水の浄化に膨大なエネルギーを消費することになる。しかし、水を使わないバイオトイレなら、こうした問題を一気に解決できる。

北海道旭川市の正和電工が開発したバイオトイレ「バイオラックス」は、水をまったく使わずに使用できる。従来型とは異なり、特殊なオガクズや微生物(菌)も必要とせず、ただのオガクズだけを用意すればいい。排泄物やトイレットペーパーの分解は糞尿に含まれる腸内細菌とオガクズに生息する自然界の微生物が行う仕組みだ。

糞尿や生ゴミの成分はほとんどが水分であるため、オガクズに水分を吸い込ませ、ヒーターで加熱・攪拌して蒸発させる。このときの熱で、便に含まれる大腸菌も死滅する。水分や固形物の処理後には、窒素やリン酸などの無機成分がオガクズに吸着した形で残るが、そのオガクズは理想的な有機肥料として使える。オガクズは年に数回入れ替える必要があるが、汲み取りは不要。衛生的で、臭いもない。

2000年に富士山で行った実証実験では、45日間、約8000人の排泄物をこのバイオトイレだけで処理できることを証明した。また、年間約300万人が訪れる人気観光地である北海道・旭山動物園に設置したところ、清潔で環境に良いバイオトイレは大きな話題となり、白神山地や知床などの世界遺産、観光地などで設置されることになった。どこにでも設置できる利点を活かし、イベント会場や工事現場での活用も進み、ソーラー発電タイプや無電源タイプなども開発された。

2013年には、東日本大震災をきっかけに災害用のバイオトイレも新たに開発した。普及型「マイバイオトイレ」は、段ボールでできた組み立て式の本体にビニール袋とオガクズを入れて使用する。本体に載せるプラスチック製または木製の便座(蓋付き)、ビニール袋、オガクズがセットで29000円という価格で、全国から問い合わせが殺到している。新発売された、快適できれいな空間、そして化粧直しの場所としても適している「女性専用の仮設トイレ」にも注目が集まっている。

海外でもバイオトイレへの注目度は高い。特に、水不足の深刻な発展途上国では、衛生問題が深刻で、水とトイレは国民の健康にも影響する。そこで正和電工では、ベトナムの世界遺産・ハロン湾浄化のODA(政府開発援助)プロジェクトに参加(建設コンサルタント会社長大との合同事業)。水を使わないバイオトイレに浄水システムを組み合わせ、トイレと生活排水を分けて処理することで、下水道設備を不要とする完全な循環型システムを提案している。

「水洗トイレが普及した日本にいると気づかないが、トイレ問題は世界規模の問題。これからは世界でトイレに関する産業に対してのニーズが高まる可能性がある」と話すのは、正和電工の橘井敏弘社長。「日本でも災害時に初めて水洗トイレの問題点に気づくが、循環型社会への移行を考えれば、法整備を含めもっと積極的に取り組んでいかなければいけない」と力説する。

日本の建築基準法において、下水道処理地域では水洗トイレしか常設できないと定められているが、2012年に国が「下水道処理区域での水洗以外のトイレの設置」を認める見解を示したことを受け、国内での設置も進み、さらには国際的な展開も加速するだろう。今後はバイオトイレの設置をきっかけに、環境、災害などの問題への意識が高まることも期待できる。



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