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Highlighting JAPAN

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科学と技術

食材本来の新鮮さと味を保つ(仮訳)

CAS技術は、食材本来の鮮度や食感、味を保ったまま凍結保存することを可能とし、さらには医学や科学への応用も進められている。

冷凍技術の向上により、魚介類や精肉から野菜、調理済み食品まで、あらゆるものが冷凍食品として流通するようになった。しかし、解凍後の鮮度の低下、食感や味が落ちてしまうという問題が残ったままだ。特に、冷凍した野菜や鮮魚では、解凍後の劣化が著しい。

冷凍による食品の劣化は、食材の組織内で氷晶が発達して食材の細胞を破壊することが原因だ。解凍するときに氷の水分とともにうまみ成分やアミノ酸まで流出するため、解凍後の食材は水っぽい食感と味になってしまう。また、マグロや精肉などでは、食品表面の水分が空気に触れて蒸発する「冷凍焼け」が起こりやすく、赤黒く変色し、味も落ちる。

そのような問題を解決するのが、株式会社アビーの「CAS(Cells Alive System)技術」で、2000年から実用化が始まった。従来の急速冷凍装置に「CAS装置」を取り付けるだけで、食材本来の鮮度や味を保ったまま冷凍保存することが可能になる。たとえば、にぎり寿司ではしゃりの部分はもちろん、ネタの鮮魚、貝類、魚卵まで、新鮮なまま凍結保存することができ、解凍後は握った直後と同じような食感、味を堪能できる。

ヨーロッパのミシュランの星付きレストランでは、CASで凍結した岩牡蠣を仕入れており、「生牡蠣」として提供されているほど。フルーツや生米、葉物野菜など、あらゆる食材がCAS技術で凍結され、数年後でも全く変わらぬ鮮度と味であることを証明してきている。

といっても、CASは急速冷凍の技術ではない。あくまでも急速冷凍技術などと組み合わせて使うもので、食品内の水分子の形成をコントロールすることで食品の品質劣化を防ぐという技術だ。CASはパルス磁場と低周波、数種の微弱エネルギーにより、素材の周囲に特殊な磁気環境を生成する。冷凍庫内にCAS発生装置を取り付けると、細胞組織内の水分子を振動させ、細胞内に生成される氷晶を微細化。氷晶が細胞壁や細胞膜を破壊することを防ぐ。細胞組織を破壊しないので、旨みや香り、食感などを損なうことがないのだ。

「CAS技術は既存の冷凍装置に後付けできるというところがポイントで、大きなコストをかけずに冷凍食材の鮮度を著しく高めることができます。そのため海外での評価も高く、世界中の食品加工メーカーなどでCAS技術が採用されています」と、代表取締役社長の大和田哲男(のりお)氏は話す。冷凍しても鮮度が落ちないため、海外の食材を安く輸入したり、逆に日本の食材を世界に広めたりすることにも貢献している。

「高齢化が進み、将来的に生産能力の低下が懸念されている農業、漁業など一次産業の分野においてCAS技術は重要になる」という大和田氏。原材料を生産・販売するだけでは大規模な海外生産品に勝てない。その材料を加工・凍結して、「日本の味」をそのまま世界に広げれば、産業として成り立ち、次世代につなげる道が拓けると期待する。

「高級な“和食”ではなく、あくまでも誰もが親しみやすい日本食がいい。郷土食や家庭料理なら世界でも日常食として受け入れられる」とも、全国の生産者に訴えている。

CAS技術には、サイエンスや医療の世界からも注目が集まっている。すでに、iPS細胞や肝細胞による再生医療の分野などで、細胞、臓器の冷凍保存にCAS技術の活用が始まっており、長期間の保存が難しいとされる血液の凍結保存に関する技術開発・実験もスタートする。「おいしく凍結」をきっかけに、日本の産業や医療界の発展にも寄与しようとする、意欲的な取り組みだ。




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