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科学と技術

狙った音だけをキャッチ(仮訳)

NTTの最新高機能マイクアレイ技術は離れた場所から音を高音質で捉え、一人の声や一つの音をピンポイントでキャッチする機能を持つ。

離れた場所から、特定の音をクリアに捉えるにはどうすればいいか。遠くの音を捉える技術としては、バードウォッチングなどで使われるパラボラマイクやスポーツ中継で使われるガンマイクなどがある。また、遠隔電話会議用の卓上マイクやスマートフォンなどでは、複数のマイクを用いて、音声を信号処理するマイク素子(マイクアレイ)という技術が使われている。

特定の音をクリアに収音するという意味ではマイクアレイが強いが、現在実用化されているマイクアレイに搭載されているマイクは2~4本程度。遠くの音を集める力も弱い。

「では、このマイクを100本にしてみたらどうだろう」。NTTメディアインテリジェンス研究所の音環境情報処理グループでは、そんな思いつきから、約100本のマイクを設置した集音システム「ズームアップマイク」を開発した。

遠くの音を詳細に解析するために、多マイクロホンで受音すべき信号の性質について基本原理を確立。12枚の凹版反射板(パラボラ)と96本のマイクからなる特殊なマイクアレイ装置を構築した。この一つ一つのマイクがそれぞれ特定範囲の音を捉えつつ、パラボラで集音する設計で、狙い通り遠くの音をピンポイントでキャッチする。従来技術では5m程度離れた位置の音を区別することも困難だったが、ズームアップマイクでは約20m離れた位置に立つ会話中の複数の人から、1人の声だけをクリアに受け取ることができる。

従来のマイクロアレイは、ほしい音だけをキャッチして、周囲の雑音を消すが、5m以上離れた距離では受音できるエネルギーが低く、本来ほしい音まで音質が下がってしまう。対して、ズームアップマイクは約100本のマイクであえて“すべての音”を高音質で集音し、騒音抑圧や音声認識機能も備える。さらに、独自開発したマイクロアレイ処理ソフトにより、特定の音源だけを任意で取り出すことを可能にした。

「このシステムを望遠カメラと連動させれば、大きなスタジアムで行われるサッカーの試合中、映像をひとりの選手にズームアップすると、その選手が話している声だけが際立って聞こえてくる、といった使い方も考えられます」とは、研究員の丹羽健太氏。

NTTメディアインテリジェンス研究所では、ズームアップマイクの技術を活かし、競技中の特定の音だけをクリアに抽出することのできる「ターゲットマイク」も開発した。見た目には一般的なガンマイクと同じだが、数本のマイクを設置したマイクアレイ技術により、スポーツの競技音などを捉えることができる。現在、サッカー中継でのキック音や選手の叫ぶ声、大相撲中継での張り手やぶつかりの音など、臨場感溢れる音を強調する実験をNHKと共同で進めている。

音だけを際立たせるやり方はズームアップマイクと同じだが、現時点では「得意な音」と「苦手な音」があり、苦手の克服が今後の課題だという。

「キック音や張り手の音など、立ち上がりの強い衝撃音はキャッチしやすいのですが、水泳で水をかく音など、平坦な音だけを抽出するのは難しい。より臨場感のある音を届けられるよう、どんな音でも抽出できるようにしたい」(丹羽氏)

当然ながら、2020年の東京オリンピックでの実用を意識して開発しているというが、応用の可能性はかなり広い。大きな会場で行われる国際会議の質疑応答が個別のマイクなしにできるようになるなど、たくさん人が集まる場所での利用にも期待できる。




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