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Highlighting JAPAN

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日本の世界遺産

独自の価値を備える日本の世界遺産 (仮訳)

文化庁長官 青柳正規氏インタビュー 

新たに登録された「明治日本の産業革命遺産」を含め19件となった日本の世界遺産。独自の文化や風土によってもたらされるその多様な魅力について、美術史学者であり国立西洋美術館館長を務めた経験を持つ文化庁長官・青柳正規氏に話をうかがった。

――日本の世界遺産の特徴を教えてください。

ユネスコの世界遺産は元々、西洋の巨大な宮殿やピラミッドのようなモニュメントなどの保全を想定してつくられた制度です。その点では日本の文化遺産は、小規模で木造建築が多い。西洋と比べると一見脆弱ですが、環境負荷を低減するための工夫、自然と共生するための配慮などは世界に類を見ない、高い水準です。

例えば奈良の法隆寺では、一部腐敗してしまった部分だけを切り出し、新たな木材と交換する修復工事が重ねられて現代に継承され、世界遺産に登録されています。また、日本の伝統的木造建築全般に言えますが、南に面して生えていた木材は建築物の南側に用い、北側斜面に生えていたものは建築物の北面に使うといった工夫もされてきました。この建築方法は、部材に加工する際、生育環境とできるだけ同じ場所に配置すれば木材の耐久性が高まるという知見から生まれました。このように、素材を活かし、使い続ける日本ならではの思想が、世界的にも希少な我が国の文化遺産の個性につながっていると思います。こうした日本独自の技術やストーリーは、今後さらに増えていく外国人観光客にも積極的にアピールしていくつもりです。

次に、自然遺産については多様性が大きな特徴と言えます。日本は世界から見れば小さな島国と思われていますが、南北に約3,000kmと長く、国土の約68%は緑に覆われているため、豊かな自然と春夏秋冬、変化に富む四季があります。この特異な環境が知床、白神山地、小笠原諸島、屋久島といったそれぞれ全く異なる特性を持った自然を育んだのです。

――ご自身が訪れた中で、印象的な日本の世界遺産を教えていただけますか。

ひとつは島根県の「石見銀山遺跡とその文化的景観」です。16~17世紀にかけて、石見銀山は世界の銀の総生産量のうち2割程度を占めたとされるほど大量の銀を生産していましたが、山の原型を崩さずに坑道を掘り進める採掘法で環境を保全していました。日本特有の自然共生型の産業遺跡です。

ふたつめは、12世紀に建立されたといわれる岩手県の「平泉:仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群」です。中央から遠く離れた東北地域に、都に匹敵する寺院や庭園などを建設したことは、日本全域に安定した文化をもたらす先駆けだったと言えるのではないでしょうか。

――今後、世界遺産登録を進めていく場所と、その見どころを教えてください。

まずは「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」です。伝播から禁教の時代の約4世紀を経て育まれた伝統と独自の建築様式、教会が起伏に富んだ街に融合した景観は非常に高い価値を備えています。登録の可否は2016年の夏頃に決定します。

次は2017年の登録を目指す候補として、今年7月に選定された福岡県の「宗像・沖ノ島と関連遺産群」です。なかでも注目を集めているのが九州と対馬島のほぼ中間にある沖ノ島です。ここでは4~9世紀に大陸との交流の成就や安全を祈願する祭祀が行われました。ほとんどが国宝に指定されている約8万点の出土品のほか、現代でも女人禁制、上陸者の制限もあるなど厚い信仰の歴史が積み重ねられてきた世界でも稀な島です。

いずれも長い時間をかけて我が国の慣習を継承し、自然環境と共存してきた、日本ならではの文化遺産と言えるでしょう。


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