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Highlighting JAPAN

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日本の世界遺産

和食を世界に(仮訳)

ある英語教師が、世界中のさまざまな国から来た人を集めて日本の食文化の集中体験講座を行いながら、無形文化遺産に登録された和食の持つ奥深い世界を伝えている。

東京の神保町にある小さなかつての民間の図書館の書棚に囲まれ、秋山亜裕子氏は長テーブルに座った小グループに話をする。

「『和』は日本の、という意味です。『食』は食べ物のことです」。

参加者のほとんどは、和食が2013年にユネスコの無形文化遺産に登録されたことを知らない。和食がこれまで長い間日本人の社会的な絆を強め、そのアイデンティティのよりどころとなってきたというその役割が認められたことを知っている人はさらに少ない。「大抵の人はただ和食が大好きなだけで、そんなことはあんまり気にしていないんじゃないかしら」と秋山氏は言う。

インターネットの旅行サイト「トリップアドバイザー」で東京の料理講座のトップ3に入っている秋山氏の教室「ブッダ・ベリーズ(仏陀のお腹)」は、常に飛び抜けて優れたレビューがつき、『トリップアドバイザー優秀認定』を受けた。彼女は寿司、うどん、弁当の講座や、涼しい季節には寿司と刺身の魚の切り方4時間コースも行っているが、この日はスウェーデンから3人の旅行客、アイルランドから2人、ドイツから1人、そして北海道に住む韓国人の女性が2時間の和食の講座に参加した。

秋山氏の仕事はこれだけではない。英文学を専攻した背景を持つ彼女は教職員免許を持ち、非常勤教師として東京都北東部にある開成中学・高校で英語を教えている。「教えることと料理が好きなんです」と秋山氏は説明する。

彼女の興味は、やがて柳原料理教室で懐石料理の複合コースで学ぶことにつながり、そこで彼女は寿司インストラクター協会から寿司インストラクターの資格を取得した。

2012年の9月頃、秋山氏はブッダ・ベリーズの料理教室を始めた。そのネーミングについて「特に深い意味はないんです」と彼女は言う。「日本のイメージがわかりやすい名前だから。さまざまな国の人たちが食を通してこの教室にやってきて、食卓を囲み、お腹を肥やす。幸せな仏陀のお腹というコンセプトです」。

体験型で、五感に訴える彼女の教室はベテラン教師ならではだ。生徒がワカメとキュウリの酢の物を作る前に、食材をみんなで回しながら、よく観察してもらう。生徒はみりん、酒、醤油を混ぜ合わせ、自分なりの照り焼きソースを作ったり、ご飯に酢を加え、うちわで冷ましながら寿司を手巻きする時にバラバラにならないように仕上げたりしながら、自分の手でその繊細なアートを体験する。

「その文化を理解し、なぜこうするのかを説明できる人がいることはとてもいいと思う」と、2週間の休暇の間にスウェーデンから来て、この教室に参加したトビアス・カールソンさんは話す。

寿司を巻き、魚を切り、タラを自分で焼いて(ベジタリアンには豆腐)、みそ汁を一から作った7人の参加者たちは、2時間のコースを終える頃には、伝統的な和食の「一汁三菜」のかたちをそれぞれに理解した。「『一』はone, 『汁』はsoup、そして『三』はthree, 『菜』はdishes。三品という意味ですね」と秋山氏が説明する。そして生徒は、ご飯を左側に、と料理の並べ方を教わり、秋山氏は食べ終わった後の箸の正しい置き方を見せて教室は終わる。

彼女はこのような生徒を年間1300人くらい教えているが、一回の教室が8人以上にならないようにしている。それぞれのニーズに合わせられるようにするためだ。「儲けるためにこのビジネスを始めたわけではないのです」と秋山氏は言う。「ただ自分の文化をみんなに知ってもらいたくて」。

秋山氏の哲学は日本のことわざ、「同じ釜の飯を食う」—同じ鍋から同じものを食べるという意—から来ている。国籍が違う人たちが集まり、和食を通して同じ体験を分かち合うのは、「世界に平和の種を蒔いているようなことかしら」と彼女は語る。



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