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Highlighting JAPAN

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科学と技術

数千の光で見守る(仮訳)

オウルサイトと呼ばれる無侵襲のベッド観察システムにより、認知症を受けた高齢者や目が離せない新生児の健康を見守ることがさらに容易になる。

自宅や高齢者施設などで認知症患者の介護をする場合、介護者がふと目を離した隙にベッドから転落したり、ひとりでベッドから離れて転倒や徘徊するなどの危険性がある。ベッドから転倒した際に骨折や頭部打撲などのケガを負い、結果として寝たきりになってしまうこともあるため、ベッド上での患者の状態を把握することが大変重要になる。

慶應義塾大学発のベンチャーであるイデアクエストは、非接触・無侵襲・無拘束でベッド上の認知症患者を監視し、人工知能と赤外線を用いて危険を察知すると介護者に通報する見守りシステム「OWLSIGHT(オウルサイト)」を開発し、販売を開始した。オウルサイトは、ベッド上の患者の「座る」「立つ」「横たわる」などの姿勢の変化による大きな動きだけでなく、呼吸による胸の上下動のような安静時の小さな動きも検出が可能で、転倒したり、危険な姿勢のままいつまでも動かないなどの危険を察知することができるのだ。それにより、患者の転倒や動かなくなった状況に素早く対応することができる。

患者の様子をビデオカメラで撮影する場合もあるが、患者のプライバシーの問題があるほか、危険な状態を察知するためにカメラ画像を監視する人が必要になる。オウルサイトにもCCDカメラが搭載されているが、このカメラが捉えるのは患者自身ではなく、患者の姿勢や動きに合わせて変化する赤外線の無数の点(輝点)だ。ベッド上に設置された赤外輝点アレイ投光器を用いてベッド全体に約2000本の赤外光を照射し、2つの赤外線受光器(CCDカメラ)で撮影する仕組みで、この2つの受光器がベッド全体の大きな動きと小さな動きを同時に捉える。

そうして撮影した点の集まりから、人の形に近い3Dモザイクを再構成。人工知能(ニューラルネットワーク)を利用して安全な姿勢と危険な姿勢を判定する。変化があれば、瞬時に「安全」「要確認」「危険」といった情報を介護者に発信するため、一人の介護者で複数の患者を見守ることができる。患者自身も見張られている感覚はなく、監視者を意識せず普段通りに過ごせる。

「ヨーロッパでは患者のプライバシーを守るため、カメラで撮影することはおろか、シルエットでも撮影することが禁止または回避されています。その点、赤外線による輝点であれば、個人を特定することなく、危険な体勢だけを察知することが可能です」と、イデアクエストCEOの坂本光広氏は話す。また、オウルサイトのメリットとして「赤外線の輝点データは画像データに比べて格段にデータ量が軽いため、長期間バックアップでき、スマホなどにも手軽に転送できる」と説明する。

このシステムを、一人暮らしの高齢者の自宅の浴室とトイレに設置して見守るプロジェクトもスタートしている。「一人暮らしの自宅で亡くなる場合の多くが、就寝中、トイレ、浴室での脳梗塞や心筋梗塞などによるものですが、発見が早ければ命を救うことができます。そのようなリスクの高い場所にこのシステムを設置し、危険を察知したらすぐに通報できるようにしたい」と坂本氏は語る。

動きの小さな呼吸の状態を検出できることから、睡眠時無呼吸症候群の診断装置や嚥下機能判定装置、新生児の呼吸情報を収集する機器なども開発した。これらのシステムには海外からの注目も高く、ヨーロッパやアジア各国でも導入が検討されているという。

少子高齢化先進国ともいわれる日本の動向には、世界の注目が集まる。日本から生まれた「新生児から高齢者までを見守る技術」は、世界中の社会問題の解決にも役立てられることだろう。




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