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Highlighting JAPAN

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連載 ご当地グルメの旅

日本茶の歴史散歩(仮訳)

日本の文化において、緑茶をたしなむことは社交の潤滑油として、あるいはリラックスの手段として欠かすことができない。京都の山城地方は、茶葉生産の歴史的中心地となっている。

茶事で細かく挽いた抹茶を泡立てる際の熟練した手首の動き、そして国内のあらゆる丘に連なる段々茶畑、気軽なお茶として友人が訪れた際にふるまわれる煎茶(日常的に飲まれる緑茶)に至るまで、お茶の文化はほとんど日本文化そのものだと言って良い。職場でも、親戚宅を訪れた際にも、さらに、多くの店では顧客が大きな買い物を検討している時にも、お茶が出される。お茶を抜きにして日本の暮らしを想像することは難しい。実際に、京都の朝日焼窯元の松林佑典氏の説明によれば、家庭の共同スペースは、現在ではリビングルームと呼ばれているが、昔ながらの呼び名は“茶の間”(文字通り、“tea space”)だという。

日本のお茶は寒冷地である北海道を除き、全国に産地が分布する。国内最大のお茶の産地であり、生産量の40%を占める静岡茶、東京からほど近く、江戸の庶民に親しまれた埼玉県の狭山茶、品質の高い玉露生産で名を高めた福岡県の八女茶など、日本を代表するお茶のブランドも数多く存在する。最近では日本の緑茶を使ったアイスクリームやチョコレートが海外でも人気になっている。

このように、日本では各地で素晴らしいお茶が収穫されているが、京都府京都市の南に位置する山城地方を訪れることで、12世紀の歴史を遡り日本のお茶の起源に接することができる。僧侶によって中国から日本へと初めて持ち込まれたお茶は、数百年の間、輸入品として親しまれたが、約800年前からは宇治で栽培が始まった。このエリアのお茶の文化は、『日本茶800 年の歴史散歩』という名称で日本遺産にも登録されている。

有名な宇治橋の東詰にある通圓は、1160年から営業しており、日本で最も古くから続く茶屋だ。この店の24代目店主、通圓祐介氏は、火鉢で湯を沸かし、杓子を使ってまず茶碗に湯を注いでから指で触れて温度を確かめ、湯を急須に移しつつ、通圓の歴史を説明する。初め橋守として高級武士に仕えていた通圓家は、大名や僧侶をはじめ、橋を往来する旅行者にお茶をふるまい始めたことがきっかけで茶屋に転じた。今日でも、日本茶の歴史を象徴するこの店には、質の高い煎茶、抹茶(正式に用いられる緑茶の粉末)、玉露茶(収穫時期に日光を遮られた茶葉を原料とする緑茶)、その他多種多様なお茶を求めて近隣のみならず遠方からも旅行者が集まる。

“琴”音楽の旋律をバックに茶をたてる技とは裏腹に、髪が長く、黒縁メガネをかけたクールな若者といった一面をもつ通圓氏は、茶道の達人にならなくとも、日本茶を楽しむことはできると語る。「当店では、お客様に好きなようにお茶を飲んでいただきたいと考えています。お茶を楽しんでいただけるのであれば、それが一番です」。

通圓では、抹茶団子(弾力のある餅米の団子)、抹茶パウンドケーキ、小豆と少量の餅の入った抹茶アイスクリームパフェなどの甘味も提供しているが、通圓氏は、お茶を飲む際にお茶風味のお菓子を食べることは薦めない。「お茶の風味が濁ってしまうのです」と彼は言う。代わりに、ほかのお菓子や軽い料理と一緒にお茶を飲む、あるいはお茶だけを味わうのが良いだろう。

近くの和束町では、お茶の栽培を間近で見学することができる。茶畑山の近くにある和束茶カフェは、地元のお茶を販売し、お茶の淹れ方を学ぶこともできる小さなお店が特徴だ。このカフェでは、電動アシスト付き自転車の貸出も行っているため、絵画のような緩やかな緑の畑を自由に探索し、時々目にする農作業者がつば広の帽子をかぶって茶葉の茂みに腰をかがめながら新茶の葉を摘み取る景色の中を駆け抜けることができる。この地域の畑は家族経営されており、約300世帯の小さな農家が密集している。1人で賄うことのできる畑は約1.5ヘクタールで、夫婦のように2人1組であれば、その倍の面積の栽培ができるだろう。電動ペダルの力を借りれば、茶畑の山を一気に巡ることができるが、その景色は格別だ。

宇治橋のすぐ裏には、川沿いの立派な敷石の道にひっそりと佇むように朝日焼窯元がある。1600年に松林家によって創業された朝日焼では、4世紀以上の間15世代以上にわたって美しい茶陶が作られており、その一つ一つが現場で手作りされている。抹茶碗を始めとして、朝日焼では身分の高い人々や茶道家のために茶器を作り続けてきたが、約150年前の江戸時代には、煎茶のために特別に作られた独自の茶器が生まれた。これらの茶器に用いられる土は、茶葉が栽培されるのと同じ宇治の土壌から採取されたものであり、また、お茶を点てる際に使われるのと同じ水が使用されている。専ら日本茶のために作られる茶器に籠められた職人の技と数世紀もの慣習は、間違いなくお茶を楽しむという体験をさらに高めている。「外国から来られる方々が、お茶を通じて日本文化を楽しんでいただければ、それは素晴らしいことだと思います」と松林氏は語る。

さらに深く煎茶の歴史に浸りたい方は、宇治市の黄檗山萬福寺を訪れると良いだろう。中国禅師の隠元が開山した萬福寺は、日本にある禅宗のひとつ、黄檗禅宗の大本山だ。萬福寺は、18世紀に、煎茶道、すなわち「煎茶の流儀」を広めた寺としても有名だ。砂紋や蓮華、中国風の寺院の雰囲気と並び、萬福寺では煎茶と禅僧の菜食料理を楽しむことができる。

お茶と真剣に向き合い、茶の点て方や茶道をその道の専門家から学びたいという方には、宇治茶道場がおすすめだ。この道場(60年の経験をもつ茶道家の田宮勇氏が運営)で用いられる方法は、厳格なものとなっている。例えば、玉露に使う湯は70 ºCに熱し、40 ºCまで徐々に冷ましてから、40 mLを茶葉5 gに加えて、湯が染みてお茶に緑の色合いがある程度見られるまで煎じる。こういった手順を煩わしいと感じる人もいるかもしれないが、瞑想的な訓練によってある種のリラクゼーション(おまけに格別なお茶も)がもたらされると考える人もいるだろう。

最後になるが、宇治橋西詰から世界遺産の平等院まで通ずる石畳の商店街、平等院表参道を歩けば、両側に沢山の茶屋やカフェが立ち並んでおり、店を眺めたり、軽い食事を楽しんだりできる。お茶通な人でも、宇治を訪れて失望することはないはずだ。この地には夢中になれる場所が溢れている。

通圓祐介氏は、別れ際にお茶を楽しむコツを教えてくれた。「難しく考えることはありません。お茶を楽しめば良いのです。自分が一番おいしいと感じる方法でお茶を飲みましょう。お茶を飲み続けることは健康にも良いですから。それから、機嫌が悪い時やイライラしている時に抹茶を点てようとすると、うまくいかないものですよ。お茶とはそういうものなのです。その人の体調や気分によって、お茶の味は変わります。ぜひお茶を飲んで、ご自分の好きな楽しみ方を見つけてください」。



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