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Highlighting JAPAN

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連載 ご当地グルメの旅

東北の秋の楽しみ(仮訳)

秋の寒空のもと、東北の人々は家族や隣人、同僚、友人などと一緒に、江戸時代から続く食文化である「芋煮会」で、美味しくて温かく、香りのいい鍋を囲んで暖を取る。

東北地方の秋の風物詩のひとつに「芋煮会」がある。これは青森県を除く東北各県で9月から11月の里芋の収穫時期に合わせ、河川敷などで里芋の入った煮物を調理して食べる季節行事で、山形県、宮城県といった芋煮会の盛んな地域では、春の花見と双璧をなす屋外でのイベントと言ってよいほどだ。この時期、地元のスーパーマーケットでは、芋煮材料を購入すると無料で芋煮用の鍋を貸し出してくれ、コンビニエンスストアには芋煮用の薪が置かれるようになるほど、地元の人々にはなじみの深い秋の食イベントである。

家族や友人同士といった小規模なグループから、会社や学校の親睦会、そして地域おこしを目的とした大規模なイベントまで、芋煮会のスケールは多様だ。東北以外でも、日本各地の東北出身者により芋煮会は行われており、海外でも2008年以来、ドイツ東北県人会によるデュッセルドルフ市内のライン川岸辺を会場として「欧州一の芋煮会」が開かれている。

地方ごとに里芋以外の材料が少しずつ異なり、山形県内陸中南部は醤油、砂糖などで味付けする「醤油味」で、具は牛肉、こんにゃく、ネギとシンプルである。山形県の中でも庄内地方は宮城県仙台平野や福島県と同様に、豚肉やこんにゃくの他に多種の野菜を使い、味噌で味付けした「豚汁風」が一般的だ。他にも鶏肉を入れたり、魚介類を使ったり、地方ごとに個性がある芋煮が作られているのも面白い。

芋煮会の発祥は諸説あるものの、一般的には江戸時代(1603-1868)に山形県の中山町で、最上川舟運の船頭が、河原で里芋と棒鱈を醤油で煮て食べたことが始まりと考えられている。中山町には、当時船頭たちが芋煮をする目印とされていた「鍋掛松」が現存し、近くの河川敷では多くの人が今も芋煮会を楽しんでいる。

最上川の支流である馬見ヶ崎川の河川敷は、芋煮会の時期には場所取りをするほど多くのグループが集まるエリアとして知られている。そんな「芋煮会のメッカ」を会場に、毎年9月の敬老の日(第3月曜日)前日の日曜日に開催されるのが、「日本一の芋煮会フェスティバル」だ。川を挟んだ両岸に、様々なイベントテントやご当地フードのスタンドが軒を連ね、国内外から多くのマスコミ取材陣が訪れるこの一大イベントの目玉は、何といっても6メートルの鉄鍋「鍋太郎」で作られる芋煮だ。

朝8時半から整理券を配布しても正午過ぎには完売してしまうという芋煮の材料は、里芋3トン、牛肉1.2トン、こんにゃく3500枚、ネギ3500本、醤油700リットル、日本酒50升、砂糖200キロ、水6トンと、桁違いの量。薪6トンを使った炎で煮込み、バックホー車2台を使って混ぜたりよそったりと、すべて圧巻の大きさで、3万食の「山形(醤油味)芋煮」が作られる。これだけの規模でも、砂糖以外の材料は全て県内産で、芋煮の主役である里芋は、地元の恵まれた土壌で育つ、大粒でねばりが強い「どたれ」という種類を使用している。

対岸では3メートルのアルミ鍋をはじめ、数々の小鍋で多様な味付けの芋煮も調理され、他の地域の芋煮を味比べすることができる。「鍋太郎」の6メートル鍋という大きさは、インパクトを狙ってのことだというが、9ピースから成るアルミ鍋は山形が誇る鋳物技術がいかされた特製品で、こんなところにも地元産へのこだわりが垣間見られる。

今年で27回目を迎えたこの「日本一の芋煮会フェスティバル」発起人の1人である新関芳則氏にお話をうかがったところ、両岸を埋め尽くすほどの人出で大いに盛り上がるこのフェスティバルは、特に開催日を連休に合わせるようになった昨年から、県外からの来訪者が急激に増え、外国人観光客の姿も見られるようになってきたという。上海から来たという中国人のグループは、「初めて芋煮を食べて、こんなに美味しいのかと感動しました。わざわざ鍋を外に運んで食べている光景が不思議で興味深い。青空の下で食べられるのは気持ちいいですね」と語ってくれた。

山形県の東に位置する宮城県内で最大規模を誇る芋煮会が、スキーリゾートとして知られる宮城県蔵王町のEBOSHIリゾートで行われるものだ。9月半ばから11月初頭まで開催され、県内の利用者をメインに、週末は多い時で1日200人も訪れることがあるほどの賑わいを見せる。

材料は、里芋、高原大根、遠刈田の豆腐をはじめ、こんにゃく、白菜、ゴボウ、人参など、蔵王産直のこだわり食材。地元で育ったいい材料に加え、煮込むために使う水もEBOSHIリゾート内に湧く天然水だ。味付けは「仙台風豚肉みそ味」か「山形風牛肉しょうゆ味」のどちらか好みで選ぶことができ、地元産の味噌や醤油で味付けをして楽しむことができる。〆のうどんまでつく「芋煮セット」は、大食漢でも満足できそうなたっぷりのボリューム。食材はすべてあらかじめカットされていて、鍋や薪、調理器具の準備もいらないとあり、予約しておけば手ぶらで気軽に訪れ、皆で作り、食べることができるのが魅力だ。

具だくさんの芋煮を楽しんだら、片道15分のEBOSHIリゾート内にあるロープウェイで標高1100メートルの展望台へ行ってみよう。太平洋沿岸を一望するパノラマと共に、全長2キロの鮮やかな紅葉を満喫することができる。ベストシーズンは9月下旬から10月下旬だが、山を下りれば11月でも美しい紅葉をいたるところで目にすることができる。

東北に秋の訪れを告げる芋煮会。今も昔も変わることなく、人と人、地域と人をつなぎ、食欲を誘う香りとともにみんなに笑顔を運んでくる。



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