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Highlighting JAPAN

自然の力で健康になる

山形県上山市の上山型温泉クアオルト(健康保養地)事業。自然の中を歩く医科学的根拠に基づく健康ウォーキングを主軸に、食や温泉などの地域資源と連携した健康増進を行っている。

東京から山形新幹線で約2時間半、東北地方南部に位置する山形県上山市は、東側にスキー場で有名な蔵王連峰を望む盆地にある。市の中心部には550余年の歴史ある温泉街を持ち、周囲を里山に囲まれ、傾斜地では果樹栽培、平地では米の栽培が盛んな豊穣の地だ。市民の健康増進と交流人口の拡大による地域活性化を目的に、人口3万人強のこの小さな市では約8年前から「上山型温泉クアオルト事業」が推進されている。

上山市市政戦略課クアオルト推進室 佐々木慶氏は「市民にウォーキングが広く普及した証拠でもありますが」と前置きし、「クアオルト(Kurort)とは健康保養地を意味するドイツ語ですが、ウォーキングのことだと勘違いして『今日もクアオルトに行ってくる』と出かけるシニアも多いのです」と苦笑する。

もともとドイツのクアオルトとは、気候・景観がよく空気がきれいで、専門医のもとに自然の治療薬や自然療法プログラムを提供するなど、厳しい条件を満たした国が認定した地域のことをいう。人々は2週間前後の長期滞在をし、その治療・滞在費は医療保険の対象となるのが大きな特徴である。

地域資源を活用した健康保養地づくりがスタートした背景には、「上山市は一人あたりの医療費や高齢化率が山形県内で高い水準にあったことに加え、観光客数も減少傾向にあったため」だという。膨らむ医療費支出の抑制はもちろん、高齢者が健康的に過ごせる暮らしづくりが急務だった。

上山市は歌人・斎藤茂吉の故郷で、茂吉が生前に留学をした縁からドイツとの交流が深かった。ドイツのクアオルトにアイデアを得て、上山ならではの豊かな自然や温泉資源、旬を味わう食、医科学的根拠に基づく健康ウォーキングなどを組み合わせたクアオルト事業を牽引したのは横戸長兵衛市長(68)だ。佐々木氏いわく「実は市長がウォーキングの一番の実践者なのです」というほど、毎朝ウォーキングコースへ出かけ、なじみの共同浴場で汗を流してから、市役所へ登庁するのを日課としているという。

上山の「クアオルト健康ウォーキング」は気候性地形療法を活用し、心拍数や体表面の温度を測定しながら各自に適したスピードを保ち、冷気や風、太陽光線などの気候要素を取り入れながら里山を歩いて運動効果を高めることを特徴とする。「がんばらないウォーキング」を合言葉に、年間を通じて様々なウォーキングプログラムが実施され、それを引率するウォーキング専任ガイド育成も行っている。

上山市内の高齢者のみならず、市外からも観光を兼ねてウォーキングへ参加するリピーターもおり、参加者の一人であったシニア男性は「ウォーキングを始めてから、飲み薬の種類が減った」と溌剌とした笑顔で語ってくれた。

豊富な農産物に恵まれた上山市では、質の高い健康保養地を目指して食の提供にも力を入れている。代表格であるレストラン「折鶴」では、旬の食材を使った独創的なアイデアと美しい彩り、栄養バランスと美味しさを兼ね備えた郷土料理が供され、ウォーキング後の人々が舌鼓を打つ。

2015年には健康・観光・環境を3本の柱とした前例のない健康保養地としての実績を評価され、第1回ジャパン・ツーリズム・アワードを受賞した上山市。佐々木氏は「まずはここに住む方々のいつまでもイキイキと元気に暮らせるまちづくりを進め、その結果として来訪者の増加につながる、人を元気にする日本を代表する健康保養地を目指したい」と、今後の展望を語った。