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Highlighting JAPAN

人生のリズムを保つ

介護施設で音楽プログラムを実施する参加型のミュージック・ファシリテーション事業を行う株式会社リリムジカ。ともに音楽を楽しむことで高齢者の興味関心を引き出し、元気をもたらす彼らの活動を紹介する。

音楽療法は様々な研究によって認知症にも効果があるとされる。しかし、株式会社リリムジカ代表であり、創業者の柴田萌さんは「リリムジカが専門家を高齢者施設へ派遣し、利用者の皆さんと行っているプログラムは、音楽療法ではない」と語る。音楽大学で音楽療法を学んだが、患者個人への医療効果にフォーカスする方法論に限界を感じ、独自の「ミュージック・ファシリテーション」へと移行していった。

「私たちは、皆さんが落ち着いた気持ちで音楽を自由に楽しみ、笑顔を取り戻すことを大切にしています。参加を強制しない自由度の高い音楽を通して『認知症の高齢者でも、こんなに音楽を楽しみ、笑顔を取り戻すのだ』という発見を生みたいのです」。

リリムジカでは、年に100カ所の高齢者施設で「レクリエーション」と呼ばれるアクティビティの時間にプログラムを行い、柴田さんはそのうち約12カ所を担当している。施設での反応は上々で、「それは、特定のジャンルやカラオケが嫌いな人はいても、音楽そのものを嫌いな人はいないから」と柴田さん。

気が乗らない人を無理に参加させなくても、音楽は同じ空間にいるだけで耳に入る。懐かしい歌や歌謡曲を耳にして、カラオケでは頑なに歌わなかった高齢者が音楽を口ずさむようになり、認知症の症状の一つで、来客を見ると「不穏状態」と言われる攻撃的な状態に陥りがちだった人も、月に1~2回定期的に訪れるリリムジカのミュージック・ファシリテーターに慣れ、楽しみに待っているのだという。

この日は東京都内にあるデイサービスセンター「デイ・ホーム世田谷」でセッションが行われた。車椅子に乗る人、自分の足で歩く人、20人ほどの様々な高齢者がにこやかに柴田さんの準備を見守っている。中でもひときわ活動的な山田富司さん(85)は、柴田さんとの事前打ち合わせに余念がない。デイ・ホーム世田谷の木高道子所長によると、「山田さんは本来別の曜日の利用者さんなのですが、音楽演奏のスキルが高いので、リリムジカの音楽の時間を楽しみにし、自主的に参加してくださるのです」という。

山田さんは会社勤めの傍ら、半世紀以上もセミプロとして東京のライブハウスでのバンド活動を続けていた腕を存分に発揮し、自分で作詞した歌謡曲の替え歌をウクレレを奏でながら歌い、柴田さんの歌にはドラムとスネアで伴奏するという大活躍ぶりだ。それを見る他の高齢者も、自分たちの仲間である山田さんと柴田さんが盛り上げるプログラムにしっかりと耳を傾け、スクリーンに大きく映された歌詞を辿りながら、音楽に合わせて歌を口ずさみ、手拍子をする。実はその中の何人かは、喋れなかったり、会話が維持できなかったりという失語症患者なのだが、彼らの多くが体を揺らすなど音楽をそれぞれに楽しんでいるのが印象的だった。

「私たちはその場の雰囲気で柔軟に楽しい音楽を提供し、皆さんの力を引き出し、生活の質を高めるお手伝いをするのが仕事です」と語る柴田さん。「高齢化社会への建設的なアプローチとして、若い世代が自分もいずれ当事者になるという自覚を持ち、将来自分の親を入れたい、あるいは自分が入りたいと思える施設環境を作っていきたい」と締めくくった。