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Highlighting JAPAN

世代の断絶がない場所

高齢化が進み、託児所の不足が深刻化しているこの国で、高齢者介護と幼児保育をひとつの施設で行い、2世代が交流して互いに学び合うというやり方は、最も和やかな解決策かもしれない。

注:園児が上半身裸で過ごすことは江東園の教育方針であり、健康増進のために行っている

平日の朝に江東園の外へと響き渡る元気な子供たちの声を聞くと、この施設のことを単なる保育園だと思うかもしれない。しかし、朝の運動の時間になると、1~5歳の元気いっぱいの園児たちは高齢者たちと一緒になって続々と遊び場へ出てくる。このお年寄りたちも運動に加わり、その後施設の裏側まで子供たちを連れていき、ごみ拾いをする。子供たちの小さな手は高齢者たちの手につながれている。

東京の江戸川区で繰り広げられているこのような光景は、保育園と老人介護施設を融合させた日本における新たなタイプの施設の模範といえるものだ。社会福祉法人として登録されている江東園は、およそ100名の幼児と100名の老人入居者を受け入れている。江東園事務局長の杉啓以子氏は、この施設には養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、デイ・サービス、保育園という4つの機能があると語る。このような施設はまさに、共働きしている夫婦の間で育児のニーズが増大しており、高齢化も進んでいるこの国にとって必要とされているものだ。

江東園は1962年に通常の養護老人ホームとして始まった。しかし、1976年に介護施設の横に保育園が建てられると、ふれあいイベントの際に子供たちが介護施設を訪れるようになった。1987年、2つの施設は統合され、保育園の子供たちと入居している老人たちの交流は日常的なものとなった。共同で活動を行うこともあれば、上階に住む車椅子の老人たちを毎日訪問していたりもする。

この形態のメリットは明らかだ。高齢者たちは自主的に子供たちと遊んで時間を過ごすだけでなく、昼食の間子供たちに目を配ることもあり、それにより保育園のスタッフの負担は軽減されている。高齢者たちは折り紙などの手芸を子供たちに教えたり、人生経験や日本の伝統を伝えたりすることもできると杉氏は説明する。

それとは逆に、65歳から101歳まで年齢層が幅広いお年寄りたちは、子供たちの快活さにより活気づけられている。「子供たちにはそのような力があります」と保育園の園長を務めている杉大治氏は語る。「施設に入った当初、いくらふさぎ込んでいても、もっとも気難しいタイプのお年寄りですら、やがては子供たちとの時間を楽しむようになります。この交流により、高齢者の方々は健康を維持し、提供される栄養価の高い食事を食べようとするモチベーションも湧きます」。

81歳の入居者である山崎仁一さんも肯きながら子供たちと過ごす時間をいかに愛しているかを語ってくれた。「子供たちにはとてつもないエネルギーがあります」と話しながら、昼食の準備のためせわしなく動き回る子供たちを見て微笑む。彼が語る通り、朝の運動が終わるやいなや子供たちは山崎さんやそのほかのお年寄りたちに群がり、抱きついたり体によじ登ったりした。その瞬間、お年寄りたちの顔から笑みがこぼれた。

当初は、体の弱いお年寄りの周りを騒々しい幼児たちがはしゃぎ回ることについて、多くの人々が懸念を示していたと杉事務局長は話す。「お年寄りたちが風邪をひいたり、子供たちが車椅子にぶつかったりしたらどうするんですか、と問われました」と彼女は語る。「でも、私たちは病気の子供や大人たちを互いに交流させることはありません」。それに大抵の場合、子供たちは入居者、特に車椅子の人々の周りを走り回らないように気をつけていると彼女は付け加える。「私たちは子供たちに対し、お年寄りの方々は体が弱く、彼らの人生は終わりに近づいていて、いつの日かいなくなってしまうということを教えています」。

杉氏の施設が真のコミュニティ感覚を作り上げたということは明白である。「ここでの私たちは、ひとつの大きな家族のようです」と彼女は断言し、江東園の3階建ての建物を「巨大な家」に例える。自分のおじいさんやおばあさんとあまり時間を過ごすことのできないような子供たちや、家族と離れて暮らしているようなお年寄りの双方にとって、この環境は何よりも大切なケアを与えているのかもしれない。