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Highlighting JAPAN

空間の探究者

マリ共和国出身のウスビ・サコ氏は、中国での留学を経て、さらに研究の幅を広げるため日本へやってきた。その使命は、人々が作り出す空間と文化が交わるポイントを探ること、そして母国と日本の架け橋になることだ。

ウスビ・サコ博士は、現在京都精華大学で人文学部長を務めており、そこで空間と文化の関係性が都市や建築における公的空間と私的空間に、どのように適用されているかを研究している。

サコ氏がおよそ30年前に母国のマリからアジアへやってきたとき、自分にどのようなことが待ち受けているのかまったく予想もつかなかった。高校を卒業した彼は、80年代半ばにマリ政府の奨学金を受け、建築学を学ぶために中国へとやってきた。サコ氏は北京で1年間、南京で5年間過ごし、マリ国内及びマリの外に広がる世界について学び始めたのはそのときだったと語る。

「私が中国に滞在していたとき、日本に来る機会を得ました」とサコ氏は振り返る。「私は都市の発展だけでなく、人々と空間の関係性、すなわち空間に対する文化的な結びつきについても感銘を受けました」。日本の伝統的な空間が現代的な空間に組み込まれている様に彼は興味をかき立てられた。建築を専攻していた彼は、それまで「どのようにして既存のものを壊し、新しいものに置き換えるか」を学んできた。中国でもマリでも、重点が置かれていたのは計画や保存ではなく、開発だった。

「私たちは、既存のものと将来の姿の持続性について考えていなかったのです」と彼は語る。「私たちはいつも置き換えることを考えていました。そのため、私が最初に日本に来たとき、大きな違いを感じました」。

その違いにより、彼は日本への移住を決意し、京都大学大学院工学研究科建築学専攻に入学した。その後、修士号と博士号を取得した。

2001年、サコ氏は京都精華大学の教員となり、そこでも空間の概念と日本やマリなど様々な国における空間の捉えられ方に関する探究を続けた。空間と文化に関して日本とマリが互いに学び合うことができるような点は何かと尋ねたところ、空間が単一の目的に用いられがちな西欧文化とは対照的に、この二国は空間の概念に関して似通った性質をもっていると彼は答えた。日本には、より柔軟性がある。空間は多機能で、伝統文化とのつながりを保っている。すべてを破壊して新たに始めるのではなく、「私たちはある程度の空間を保持することができるのです」と彼は語る。「私たちはこれらの空間を現代的なデザインに組み込むことができます。日本は現代的な国ですが、同時に持続性もあるのです」。サコ氏は日本の家は現代と伝統が混ざり合っていろいろな使い方をされていることがひとつの良い例だという。家や建物には新しい材料を用いているが、多くの家ではまだ畳が使われており、そこで食事をしたり、生活したり、睡眠を取ったりし、時間や用途によって低いテーブルを片付けてクッションや布団を出して使う。

しかし、彼は日本もマリから学べることがあるという。たとえば、マリの住居には中庭があり、「この空間はとてもフレキシブルです」とサコ氏は話す。「そこは食事するための空間であり、話したり休んだりするための空間でもあります」。家族は互いとつながり合うためにその空間を使用し、家族のメンバー――数世代が同じ場所に住むことが多い――は毎日顔を合わせる。

「アフリカには変化していく空間もありますが、同時にこれらの伝統的な空間はいまだに保たれています」と彼は語る。「それは家族の場所のようなもの――日本の都市社会、生活環境からは若干消失しつつあるものです」。空間をよりプライベートに、より個人向けにしようとするあまり、家族のための空間や公的空間が失われつつあることを彼は懸念している。

サコ氏はマリと日本の間にコミュニケーション・チャンネルを築くために尽力し、外国人学生が現地コミュニティに馴染む手助けをするボランティアグループを立ち上げ、京都府の国際化に関する助言を行ない、京都精華大学で交換留学生プログラムに関わり、キャンパス内に国際交流スペースを作った。彼はまた、日本とアフリカの国々の間に立ち、政府や調査旅行の手助けもしている。この双方にとって、学び合ったり、文化や社会のために貢献できる機会はたくさんあると信じている彼は、日本やマリの若者たちが将来立ち上がって課題に挑戦してくれることを強く望んでいる。

社会がますます区分されているように思われる時代に世界へ出て行き、コミュニティを築いたり知恵を共有したりするのはときに困難なことだと彼は認識している。「でも、結局のところ、みんな本当は互いを必要としているということが分かるのです」。