Home > Highlighting JAPAN >Highlighting Japan February 2016>ロボット技術

Highlighting JAPAN

成功のルアー

コンピュータ制御で漁師の熟練した動きを忠実に再現する全自動イカ釣り機。工場用作業ロボットと同様の技術は省力化を可能にし、カスタマイズされた使いやすさが世界で支持されている。

日本の冬の風物詩ともいえるイカ漁の現場では、コンピュータ制御の全自動イカ釣り機が活躍している。このイカ釣り機で世界シェア50%を占める三明電子産業株式会社の萩原三郎氏と塩川年和氏に話をうかがった。

三明電子産業の専門はモーターを回す技術であり、1974年から改良を重ねながら製造してきた全自動イカ釣り機。現在は9世代目になるSXというモデルを国内、海外に販売している。同社が工場用ロボットにも使われる自動制御装置であるサーボ制御による「位置決め制御」の動きがイカ釣り機に応用されている。

「イカ釣りは、環境保全のため、網による漁が禁止されています。昔は巨大なリールにハンドルを付け、漁師が手動で巻き上げる重労働でした。さらに各リールに一人ずつ漁師がついていないといけないので、人件費も相当なものでした。モーター関連の装置を様々な企業に納めている弊社は、昔から清水港の漁労関係者と親交が深く、彼らから漁の過酷さ、高齢化、後継者不足などの悩みと、省力化、自動化の要望を聞き、それならば全自動のイカ釣り機を作ろうということになったのです」と萩原氏は説明する。

漁船の甲板に並ぶイカ釣り機のリールドラムから水中に沈められるワイヤーには、疑似餌状の針が20個ほどついており、昔は漁師が「しゃくり」と呼ばれる緩急をつけてワイヤーを引く動作が水中ではまるで本物の小魚やエビのような動きになる。イカ釣り船の光に集まったイカが、この動きで疑似餌を本物の獲物だと思い食いつく仕組みだ。

従来はひし形のリールドラムを使うことにより、しゃくり動作の強弱をつけていた。しかし、それではしゃくりの動きは再現できても、イカが反応しないのが難点であった。また、ワイヤーを繰り出す時間がかかるため非効率であり、ワイヤーや疑似餌などの漁具が痛むなどの欠点があった。解決策として丸型のリールドラムを使うことにより安定したワイヤーの繰り出しを実現し、疑似餌やワイヤーといった漁具への負担を軽減し、漁具の高寿命化を実現した。

これに加えて、SXは工場用作業ロボットが部品の位置を決める際に不規則に止まる動きと同じような動作性を持つため、漁師の「しゃくり」同様のワイヤー動作が可能となり、イカを疑似餌に食いつかせることができると同時に従来機の欠点も解決したのだ。

「漁師ごとにしゃくりにはクセやコツがあります。それを忠実に再現するために、船に乗り込んで彼らの動きをプログラミングしました。高度なコンピュータ制御システムがイカ釣り機に搭載されることで機械の操作が複雑化するというデメリットも、個々の漁師に合わせて操作パネルの仕様がカスタマイズできるため、問題にはなっていません。実際、コンピュータ機器の操作が苦手と言われる70~80歳の漁師の方々もこの機械を使いこなしていますよ。」と、萩原氏は微笑む。

「もともと小規模な国内のイカ釣り市場は、漁業全体の衰退とともに縮小しています。どれほど輸入の冷凍イカが増えても、新鮮な『活きイカ』を好む日本人の嗜好はなくなることはないと思いますが、市場としての頭打ち感は否めません。中国、韓国、台湾を中心に、海外からの注文が増えていることはビジネスの面でもうれしく、また私たちの技術力が世界で認められているという点でも誇らしいものです」と塩川氏は付け加える。さらに、現在中国をはじめとするアジア地域でのマグロの人気の高まりが、マグロ漁において餌となるイカの確保のためのイカ釣り機需要を支えてくれるのではないかと期待を寄せる。

技術革新へのたゆまぬ努力と使う人に優しい装置作りという心遣いを共存させることが、コンピュータ制御という専門技術を幅広い分野に応用している同社の魂であるといえるだろう。