Home > Highlighting JAPAN >Highlighting Japan June 2016>文化財の活用

Highlighting JAPAN

「聖地巡礼」の文化財

人気アニメ「けいおん!」のファンは、アニメに登場する学校のモデルが旧豊郷小学校であることを知ると直ぐに「聖地巡礼」へと赴いた。

滋賀県豊郷町の旧豊郷小学校は、地元出身の実業家である古川鉄次郎(1878-1940)が私財を投げ打って寄贈した公立小学校で、設計を手がけたのは、当時キリスト教伝道のために様々な事業を行っていた米国人ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880-1964)だ。1923年5月30日に竣工した校舎は、当時としては珍しい鉄筋コンクリート製だった。プール、講堂、独立した図書館を備え、集中暖房設備や当時一流の教育器材を揃えるなど、この小学校は「東洋一の小学校」、「白亜の教育殿堂」と称された。

そうした歴史的建造物であり地元の誇りでもある小学校が、老朽化を理由に取り壊されようとしたことがある。しかし、住民たちによる熱心な保存運動が展開された結果、校舎は保存されることとなった。2008年から大規模改修が行われ、旧校舎は町立図書館や子育て支援センター、シルバー人材センターなどが入居する施設として整備された。

かつての竣工日に合わせて2009年5月30日に一般公開の式典が催された。そして、当日、見慣れぬ多くの若者たちが町に来訪したことに町の職員や住民は驚いた。豊郷町は農業を主産業とする人口7400人あまりの小さな町であり、観光客が訪れることなどそれまでほとんどなかった。彼らはアニメ「けいおん!」の「聖地巡礼」のために豊郷を訪れたことが直ぐに分かった。

「けいおん!」のテレビ放映が始まったのは、旧校舎が一般公開される1カ月前の4月9日のこと。アニメを観た熱心なファンが、かつて保存運動がニュースになっていた旧豊郷小学校がアニメの校舎のモデルではないかという推測をネット上で広げたのだ。その後も日本全国はもとより世界中からアニメファンが巡礼に訪れるようになった。当初は戸惑っていた住民や町もその流れを歓迎し、一般公開から1カ月後の6月には「けいおんでまちおこし実行委員会」が設立。旧図書館を活用してカフェを開業し、2011年からは講堂を使って「とよさと軽音楽甲子園」を開催するようになった。これは全国の高校生バンドを募集して事前審査を行い、5組のバンドを招いて1位を競う音楽フェスティバルで、1位のバンドには文部科学大臣賞が贈られる。

聖地巡礼先として注目が集まる中、旧豊郷小学校は2013年に国の有形文化財に登録された。2014年11月には、全国のアニメ聖地の関係者が一堂に会して各地の取り組みを報告する「全国アニメ聖地サミットin 豊郷」も開催された。この時点で豊郷町を訪れたファンは30万人に達しており、今なお年間2万人ほどが訪れている。

旧豊郷小学校を訪れたファンたちは「アニメのモデルとなった舞台を確認できてワクワクします」、「コスプレ写真を撮るには最高のシチュエーションですよ」と異口同音に語る。ファンの呼びかけでアニメの各キャラクターたちのバースデー・パーティも開催されたりするなど、その人気は衰えそうにない。