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Highlighting JAPAN

アフリカで広がるカイゼン

日本のビジネス哲学である「カイゼン」が徐々に、組織的に、アフリカ、特にエチオピアで広がりつつある。

「カイゼン」はもともと、「より善い状態にするために改める」という意味の日本語だが、現在は生産現場における品質や生産性の向上のための活動という意味で、日本以外でも広く使われる言葉になっている。 

カイゼンは日本で、第二次世界大戦後の疲弊した経済の状況下、従業員たちの工夫から発展した。例えば、工場内の整理整頓などの5Sである。大きな設備投資の必要なく実行できるカイゼンは製造業を中心に広がり、日本の高度経済成長の原動力の一つとなってゆく。1980年以降、海外進出を果たした日本企業が各国の自社工場にカイゼンを取り入れ成果を上げると、日本企業以外でもカイゼンが行われるようになった。

アフリカでカイゼン導入の先進例がエチオピアである。近年、同国は経済成長を続けており、ここ数年の実質GDP成長率はおおむね10%で推移している。エチオピアの主要産業は農業、サービス業だが、エチオピア政府は持続的な経済発展のために製造業の競争力強化に力を入れている。この戦略の一翼を担うのが政府の機関であるエチオピアカイゼン機構(EKI)だ。エチオピアでカイゼン普及のリーダーシップをとったのが故メレス・ゼナウィ首相だ。2008年に首都アディスアベバで開かれた会合で、国際協力機構(JICA)がチュニジアで実施していたカイゼンのプロジェクトを知ると、メレス首相は直ぐに日本に支援を要請した。その要請を受けJICAは、2009年から、パイロット企業にカイゼンをテスト導入する「品質・生産性向上調査」をスタートさせた。2011年からは「品質・生産性向上カイゼン普及能力開発プロジェクト」が実施され、それに合わせて、エチオピア政府は民間企業にカイゼンを普及するための中核機関としてEKIを設置した。それ以来、EKIはJICAと協力しながらカイゼンの普及を進めている。

EKIの重要な役割の一つは、企業に対してカイゼンの指導を行うEKI所属のコンサルタントを育成することだ。「EKIで研修を受け、コンサルタントになった人は、すでに100名を超えました。エチオピアはアフリカの中でカイゼンの先進国となっています」と、日本生産性本部の藤田健司氏は話す。藤田氏は2015年からスタートしたJICAの「エチオピア国品質・生産性向上、競争力強化のためのカイゼン実施促進能力向上プロジェクト」のメンバーとして、EKIを支援している。

プロジェクトでは、カイゼンの研修を受けたコンサルタントが日本人専門家と共にパイロット企業に赴き、実際の作業現場で見つけた課題に対してカイゼンの提案を行う。工場内の整理・整頓の実施や、作業の流れをスムーズにするレイアウトへの変更、作業のムダの削減などである。そのほか、作業標準の改定や励行を通した不良品の削減、計画的な設備保全活動による機械・設備の故障の減少にも取り組む。

日本人専門家と現地コンサルタントはカイゼン活動実施のための支援を行うが、主役はあくまでも企業である。いかに生産現場の本質的な課題を見つけ出し、有効な改善策を提案できるか。それができれば、企業側も本気でカイゼンに取り組んでくれる。現場の従業員が主体となって行うカイゼンは効果が大きく、持続しやすい。エチオピアのプロジェクトでは、カイゼン活動を通して、製造コストの削減、作業時間の短縮、不良品の減少などの成果を上げた工場も多い。

「当方のカイゼン指導を踏まえて、自分たちで考え、独自のカイゼンを展開している会社もあり、嬉しい驚きがあります」と藤田氏は言う。

藤田氏はケニアで、JICAの「産業人材育成プロジェクト」にも参加をしている。このプロジェクトは、アフリカ各国でJICAが製造業に対して行うカイゼン関連のプロジェクトのなかで唯一、マーケティング・営業、財務管理へのカイゼン導入を目指すものだ。

「企業の業績が良くなるには品質・生産向上だけではなく経営全般をチェックする必要があります。アフリカの製造業の躍進のために、ぜひケニアのプロジェクトも成功させたいです」と1年の大半をエチオピアとケニアで過ごす藤田氏は語る。「カイゼンは会社の社員全員で行う活動です。私は現地のスタッフを指導する立場ですが、日々彼らから学ぶことも多いです」