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Highlighting JAPAN

シアバターの恵みを女性に

森重裕子氏は、ブルキナファソで採れる「シアバター」を原料に使った石鹸や化粧品を日本で販売することで、現地女性の自立を支援している。

シアバターは、西アフリカから中央アフリカにかけて存在する「シアベルト」と呼ばれる地域に自生する「シアバターノキ」の種子から採取される植物性油脂だ。脂肪酸と栄養分に富むシアバターは、アフリカでは数千年にわたって食用や、薬品、スキンケア用として利用されている。このシアバターが豊富なブルキナファソで、現地女性のエンパワメントを目的に、シアバターを原料に使った石鹸の生産を支援しているのが森重裕子氏である。

「ブルキナファソでは、女性が子供の頃から教育や医療を十分に受けられないケースが少なくありません」と森重氏は言う。「この状況を改善するためには、女性が安定した収入を得ることが必要です。そこで私が着目したのが、シアバターを彼女たちの収入源にすることでした」

森重氏が開発途上国での活動に興味を持つようになったきっかけは、大学生の時に訪れたネパールでの体験だ。森重氏はそこで貧困や人身売買といった問題を目の当たりにし、自分として何か行動したいという思いを持つようになった。

森重氏は大学卒業後、就職した会社を7年で退社、大学で家庭・医療ソーシャルワークやエイズ予防を研究しながら、ネパールで女性や子供への支援活動に関わった。その後、青年海外協力隊に応募し、村落開発普及員として2003年から2年間、ブルキナファソに派遣された。

森重氏はブルキナファソで、スキンクリームや、薬など万能薬のように使われているシアバターと出会う。良質な作りたてのシアバターの持つ豊かな香りとその肌への効果に魅了された森重氏は、ビジネスとしての可能性を感じた。そして、2009年に、現地のディウラ語で「おかえりなさい」「ようこそ」の意味を持つ「ア・ダンセ」を社名とする会社を立ち上げ、2010年から現地で生産したシアバター石鹸を日本で販売し始めた。

石鹸に使用するシアバターを作るのは、ブルキナファソの西部、コモエ県の17の村の「住民森林管理グループ」(GGF)の女性たちだ。GGFは持続的な森林管理を担うとともに、シアバター生産や養蜂などの生計向上活動を行っている。そして、そのシアバターを使って石鹸を作るのが、市民団体「ラキエタ・エイズ対策センター」の女性スタッフだ。HIVに感染している女性を中心に、対策センターの石鹸製造研修センターで石鹸作りを行っている。石鹸の製造の責任者に、ブルキナファソでは非常に著名な伝統医療専門家の薬学博士が就いている。

「石鹸にはいくつかの製法がありますが、弊社のシアバター石鹸は“コールドプロセス製法”と呼ばれる製法を用い、外からの熱を一切加えずに作っています」と森重氏は言う。「これは昔ながらの製法で、熟成させるまでに1ヵ月ほどかかるなど手間暇が必要なので、大量に作ることはできません。それでも、高品質の石鹸を作るためには、絶対に欠かせない製法なのです」

石鹸製造については、兵庫県で手作りの無添加石鹸を製造している丸菱石鹸の支援を受けた。社長自らが現地に赴いて技術指導を行ったり、ブルキナファソから製造関係者を日本に招いて研修を行ったりしている。

現在、現地でシアバターと石鹸の製造に従事する女性は数百人に及ぶ。女性たちはシアバターや石鹸の生産によって、確実に現金収入が増えている。それとともに彼女たちは自信をつけ、GGFや石鹸製造研修センターにおいて、積極的に意見を述べるようになってきている。

ア・ダンセは現在、石鹸のみならず、他のアフリカ諸国で作られたアクセサリーやバッグをインターネットやデパートで販売している。なかでもシアバターとシアバター石鹸は、肌をしっとりさせる効果が高いと非常に好評だ。

「私たちが重視しているのは、品質でも値段でも、決して妥協しないことです。そのためにブルキナファソの人々と定期的に話し合いを重ね、一緒に物事を進めています。今は実験的にハーブ石鹸の製造・販売も始めました」と森重氏は言う。「他にもカシューナッツやハチミツ、乾燥マンゴー、ゴマ、などを使って、何らかの商品化ができないか模索しています。将来的には、ブルキナファソや周辺国で販売できる体制を作り上げたいです」