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Highlighting JAPAN

“スーパーハッピー”な壁画

アーティストのミヤザキケンスケ氏は、開発途上国の子どもと一緒に描く壁画で知られている。それは、ケニアのマゴソ小学校での共同制作をきっかけに始まった。

ミヤザキケンスケ氏は筑波大学で美術を学んだ。大学院卒業後、ミヤザキ氏はロンドンに渡り、路上で絵を即興で描き上げるライブペインティングを行っていた。ミヤザキ氏はロンドン滞在中、テレビでマゴソ小学校のドキュメンタリー番組を目にした。貧しい暮らしの中でも真剣に勉強する子供たちの姿に胸を打たれミヤザキ氏は、「子どもたちが少しでも喜んでくれれば」という思いから、マゴソ小学校に壁画を描かせてもらえないかと打診した。マゴソ小学校で2006年に行った第1回目の壁画制作が、その後のミヤザキ氏の制作活動に大きな影響を与えることになる。当初、ミヤザキ氏は大学時代にフィリピンの孤児院で描いて子供たちに大人気だったドラゴンの絵を壁に描いた。ところが、ケニアの子供たちは喜ぶどころか絵を怖がり、中には泣き出す子供も現れた。その絵は職員会議にかけられるほど大問題となり、ミヤザキ氏は急遽、絵を描き直す決心をした。

「かつて人気を得た絵を単純に題材に選んだのが、そもそもの間違いでした。現地の子供たちが喜ぶ絵でなければ意味がないとわかったのです」とミヤザキ氏は言う。「それでみんに何を描いてほしいかを聞き、ケニアの動物や植物や乗り物を、聞いたその場で次々と描いていきました。自分たちが希望したものを描いてくれるということで、最初は遠巻きに見ていた子供たちも一気に集まってきてくれました」

こうしてミヤザキ氏が子供たちと打ち解けたことで、彼ら自らも喜んで絵の制作に参加するようになった。描き直した壁画は滞在期間ぎりぎりで仕上がり、全員で完成を喜び合った。

「完成した壁画は、僕の作品というよりはみんなの作品です。だからこそ、誰もが心から喜んでくれたのです」とミヤザキ氏は言う。「この壁画制作は、自分で描くことだけがアートではないということに気付く大きなきっかけとなりました」

ミヤザキ氏の壁画はマゴソ小学校で大評判となり、小学校を増築した2010年、スラムでの火災の影響で小学校の壁を建て替えることになった2015年にも、ミヤザキ氏は小学校に請われてケニアを再訪し、みんなで新たな壁画を完成させた。2015年の時は、日本の子供たちもプロジェクトに参加し、原画を彼らが描いたり、スカイプを通して両国の子供たちが絵を描き合ったりといった相互交流も行われた。ケニアの子供たちが描いた絵を商品のパッケージにし、その商品の日本での売り上げの一部を現地に寄付するプロジェクトも立ち上がった、

「僕の絵のコンセプトは“スーパーハッピー”なんです。100%ポジティブなものしか描きません。使う色は強い力のある原色のみで、人物も全員が正面をしっかり見つめています」とミヤザキ氏は言う。「そうしてみんなで描いた絵には、強い力があると信じています。だから、壁画プロジェクトは一生をかけて世界中で続けたいと思っているんです」

ミヤザキ氏は、新たに「Over the Wall」という世界壁画プロジェクトのチームを立ち上げた。毎年新しい国や地域で壁画を制作し、絵を通して国を越えた子供たちの交流を積極的に図ることを目的としている。2016年8月には東ティモールの孤児院で、2017年にはガーナの小学校で壁画プロジェクトを実施、ミヤザキ氏は子供に夢を与える壁画を描き続けていく。