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Highlighting JAPAN

灯り舞う半島

石川県の能登半島では夏、特徴的な灯籠の祭りが行われる。

日本海に突き出るように伸びた石川県の能登半島は、美しい自然とともに、独自の文化が育まれた地域であり、「祭りの宝庫」と呼ばれるほど、一年にわたって様々な民俗行事が行われている。

能登半島で夏に行われる代表的な祭りが「キリコ祭り」である。キリコとは、直方体の形をした灯籠の一種で、様々な飾りや絵が施されている他、人が肩で担ぐための長い棒が取り付けられている。能登半島では7月から10月までの間、約200もの地区でキリコ祭りが行われている。

キリコ祭りは疫病を防ぎ、無病息災を願う祭りを起源にすると言われる。1853年に製作されたキリコが現存しており、江戸時代(1603-1867)の後期には既に現在と同じく盛大に行われていた。

「江戸時代、キリコ祭りが能登半島の各集落に広がるにつれて、祭りは集落の威信をかけた行事となっていったのです」と石川県教育委員会事務局の田村彰英氏は言う。「集落同士でキリコの大きさ、装飾、数などを競い合うようになったので、祭りが多種多様になりました」

約200のキリコ祭りのうち、主だったものを3つ紹介する。

キリコ祭りの一番手として7月第1金曜日と土曜日に能登町で行われるのが、「あばれ祭り」である。あばれ祭りは、伝染病を治した牛頭天王と呼ばれる神に感謝を捧げるために約350年前に始まったと伝えられている。大勢の人に担がれた2基の神輿と40基を超えるキリコが5本の松明周りを勇壮に乱舞する。さらに、人々は神輿を海や川に投げこんだり、火に投げ入れたりと暴れ回る。勇ましいことを好む牛頭天王を喜ばせるために、激しい祭りになったと言われている。

また、8月14日、15日に穴水町で行われる「沖波大漁祭り」は、人々が5基のキリコを担いで海に入り、海の安全と大漁を祈願する祭りである。人々は胸まで海に浸かりながら、キリコを激しく揺り動かす。

9月第2土曜日に珠洲市で行われる「寺家キリコ祭り」は、高さ16.5メートル、重さ4トンという巨大なキリコが特徴である。4基のキリコの本体は輪島塗で仕上げられ、金箔貼りの龍の彫刻が施されている。

「キリコ祭りは、キリコを担ぐ人だけではなく、集落のすべての住民が祭りを楽しみます」と田村氏は言う。「キリコ祭りは地域住民を結びつける、非常に大きな存在なのです」

祭りが近くなると、大人はキリコを組み立て、子どもは笛や太鼓の練習をする。仕事で故郷を離れている人も、祭りに参加するために帰郷する。

また、キリコ祭りでは「ヨバレ」という風習も受け継がれている。ヨバレとは、祭りの当日に、各家庭で親戚や知人を招待し、この日のために用意した特別な料理「ごっつぉ」を振る舞うことである。ごっつぉは、能登の豊かな自然の恵みがふんだんに使われた郷土料理である。ごっつぉで招待客をもてなし、互いの絆を確認する。

「能登を旅すると美しい自然と、人々の人情に触れることができます」と田村氏は言う。「そして、夏にはキリコ祭りを見ることができます。それは、能登の神々に出会うスピリチュアルな旅となるでしょう」