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Highlighting JAPAN

CO2を大幅削減する製鉄プロセス

日本では官民が協力して、製鉄過程で発生する二酸化炭素の排出を大幅に減らす研究開発に取り組んでいる。

日本の鉄鋼業から排出される二酸化炭素(CO2)は、日本全体のCO2排出量のうち14%を占め、主要排出源の一つとなっている。鉄鋼業のCO2排出量が多い大きな理由は、製鉄プロセスで大量のコークスを必要とするためである。鉄の原料である鉄鉱石は酸素と結びついた酸化鉄として存在するため、鉄鉱石から鉄を生み出すには、鉄鉱石の酸素を除去(還元)する必要がある。そのために、石炭を蒸し焼きにして炭素濃度を高めたコークスが使われる。高炉の中に鉄鉱石とコークスを入れて熱風でコークスを燃焼させ高温にすると、一酸化炭素は酸素と結びつきやすいので、鉄鉱石から酸素が取り除かれる。一方、この過程で一酸化炭素(CO)と酸素(O)が結びつくことでき、大量のCO2が発生してしまう。

「日本では、1970年代のオイルショック以降、省エネ技術・設備の導入が進んできました」と新日鐵住金・技術開発部の殿村重彰氏は語る。「その結果、日本の鉄鋼業は、世界の鉄鋼業の中で、最も省エネルギーが進みました」

日本の鉄鋼業は現在、2050年に向けて、さらなるCO2削減を目指すプロジェクト「環境調和型製鉄プロセス技術開発(COURSE50)」を進めている。このプロジェクトは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、鉄鋼メーカー4社(神戸製鋼所、JFEスチール、新日鐵住金、日新製鋼)と、鉄鋼系エンジニアリング会社1社(新日鉄エンジニアリング)の合計5社に委託する形で進められている。

「CO2排出量の削減量は近年、頭打ちの状態です。従来の方法でCO2を大幅に減らすのは難しくなっています」と殿村氏は言う。「COURSE50では、そうした状況を打開する革新的な技術開発を目指します」

COURSE50では2つの削減策を組み合わせ、従来と比べて、CO2を30%削減することを目標としている。第1の削減策は、高炉から排出されるガスからCO2を分離・回収し、地中や海中に貯留するというものであり、この技術によって、20%程度のCO2排出量を削減できる見込みだ。

第2の削減策は、コークスの一部代替として、水素を使用して鉄鉱石を還元する方法だ。コークスを使った還元ではCO2が発生するが、水素(H)を用いれば、水素と酸素(O)が結合し、発生するのは水(H2O)となる。還元に用いる水素は、コークスを蒸し焼きにする時に出るガスから取り出すため、製鉄プロセスのなかの水素源を活用することとなる。この水素還元技術によって、約10%のCO2削減が可能となる。

今年3月には、新日鐵住金君津製鉄所内で建設を進めてきた内容積12m3の試験高炉が完成し、6月から試験高炉を用いた本格実験が開始されている。COURSE50では、CO2貯留に関するインフラ整備と経済合理性の確保を前提に、2030年に1号機を完成させることを目指している。

「今後、政策的な事も含めいくつものハードルを越える必要がありますが、現時点でCOURSE50技術開発全体のスケジュールとしては、予定通り進んでいます」と殿村氏は言う。

日本の鉄鋼業において開発・実用化された省エネ技術は、海外への普及が進んでおり、年間5340万トンものCO2削減効果を生んでいる。COURSE50によって革新的な製鉄プロセスが実用化すれば、地球温暖化防止へのさらなる貢献が期待される。