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Highlighting JAPAN

クールビズが変えた日本の夏

2005年からスタートしたクールビズによって、日本の夏を快適にする高機能繊維の開発が加速された。

かつて日本のビジネスマンは、一年を通してビジネスの場では、スーツにネクタイ着用という姿が一般的であった。そのため、高温多湿の日本の夏は、ビジネスマンにとって厳しい季節だった。

それが、地球温暖化防止の一環として環境省が推進する「クールビズ」のキャンペーンで大きく変わった。クールビズは「冷房時の室温28℃でも快適に過ごすことができるライフスタイル」である。オフィスや家庭で、冷房の設定を上げることで、電力の消費量が抑え、CO2排出を削減するのが目的だ。

2005年にクールビズが始まると多くの企業が賛同し、社員の軽装を奨励した。その結果、ビジネスマンの間で夏には、ジャケットもネクタイも着用しないスタイルが広がったのだ。今やクールビズは「夏のビジネスマンの軽装」の代名詞となっている。

クールビズの広まりとともに、より快適な衣服を作るための素材として、高機能繊維の開発が加速された。

「高機能繊維はポリエステルなどの繊維に、特殊な機能を付与した繊維です」と日本化学繊協会技術グループの大松沢明宏氏は言う。「高機能繊維の開発は日本が世界をリードし続けています。継続的に新しい高機能繊維を開発しているのは世界でも日本だけです」

クールビズの素材として使われる高機能繊維には主なもので4種類ある。一つめは、汗をよく吸収し素早く乾燥させる「吸汗速乾素材」である。その仕組みは、繊維の表面積を大きくすることで、繊維と汗との接触面積が増やし、より多くの汗を吸収できるようにするというものである。繊維の表面積を大きくするために、繊維を極細にして組み合わせる、あるいは、繊維の形を変えて汗を吸い上げやすくする素材が開発されている。繊維の表面積が大きいことは、吸い上げた汗が拡散して蒸発しやすいことにもつながり、速乾性を同時に付与することができる。

二つめは、触ると冷たさを感じる「接触冷感素材」である。この素材は、熱を伝えやすく、水分との親和性が高いため、皮膚から熱を素早く吸収する。その結果、触ると冷たさを感じる。製品としては、例えば、1本1本の繊維を二重構造にして、内側にポリエステル、外側に熱伝導性が高く親水性を持たせた特殊素材を配した構造を持つ繊維などがある。

三つめは、通気性をコントロールする「通気調整素材」である。この素材は、汗をかいて衣服内の湿度が上がると、繊維が伸びて編目が開くことで通気性が高まり、乾燥すると再び編目が閉まり、通気性が抑えられるという仕組みである。衣服内の湿度や温度が自動的に調節されるので、快適性が保たれる。

そして最後は、「遮熱・断熱素材」である。この素材は、太陽の光や熱を遮断して、衣服内の温度の上昇を防ぐ。類似した機能を発揮する素材として、紫外線を吸収・乱反射する紫外線遮蔽素材も開発されている。

「高機能繊維の機能性は年々、高まっており、それに伴い、快適性も高まっています」と大松沢氏は言う。「近年、繊維各社はより高度な機能性の付与や、複数の異なる機能性を一つの繊維製品に付与する研究開発に力を入れています」

高機能繊維はクールビズの素材だけではなく、スポーツなどのレジャーの分野にも広がっている。世界のスポーツ有名ブランドの製品にも日本の高機能繊維が次々と採用されている。また、冬に室温20℃でも快適に過ごせるライフスタイルを目指す「ウォームビズ」向けに、暖かさを保つ機能を持つ高機能繊維も商品化されている。例えば、吸収した太陽光エネルギーを熱エネルギーに変える素材、あるいは、水分を吸うことで発熱する素材などが開発されている。

日本がこうした高機能繊維の開発で世界的にリードしている理由の一つは、日本には繊維素材の製造技術だけでなく、優れた織物加工、染色加工などの技術が存在していることである。その代表的な地域が、江戸時代(1603-1867)から繊維産業が盛んであった福井県、石川県、富山県がある北陸地方の繊維産地である。特に、化学繊維の加工では、北陸地方に日本有数の高い技術力を持った企業が集積している。これら産地の中小企業の中には高機能繊維の加工に止まらず、次世代に向けた最先端の用途開拓に積極的に取り組んでいる企業も多くみられる。昨年秋に放送され大ヒットしたテレビドラマ「下町ロケット」のモデルになった「心臓修復パッチ」には福井の編物メーカーが開発に携わっている。

「高機能繊維製品は簡単に作れるわけではありません」と大松沢氏は言う。「化学繊維メーカーの最先端技術と、産地で長年培われてきた匠の技術が組み合わさって、高機能繊維は実現しているのです」