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島の宝:黒糖焼酎

九州は焼酎の誕生の地、中心地として知られる。九州の離島、奄美群島は希少で特別なお酒「黒糖焼酎」の生産地である。

奄美群島は、九州の鹿児島県鹿児島市の南南西約380㎞の洋上に浮かぶ奄美大島を主島とし、8つの有人島に約13万人が暮らしている。国内最大規模の亜熱帯照葉樹林や白砂のビーチ、サンゴ礁の美しい海など、多様な自然がそれぞれの島に残されている。年平均気温は21℃と四季を通じて暖かく、雨量の多い土地でもある。

ここには、日本で唯一この島々だけで造られている黒糖焼酎がある。ラム酒はサトウキビを原料とする蒸留酒だが、黒糖焼酎は米麹とサトウキビから作られる黒糖を使って仕込まれるので、黒糖のおだやかな香りと米麹由来の芳醇な風味を併せもっているのが特徴である。

「奄美群島では17世紀にサトウキビ栽培が始まったと伝わっています。しかし、サトウキビから作る黒糖は、当時、奄美群島を治めていた薩摩藩の専売品であり、島民が使ってはいけないものでした」と鹿児島県酒造組合奄美支部の牧正二郎氏は言う。「ただ、19世紀に記された書物に、サトウキビの絞り汁を用いた焼酎が存在していたとの記述があり、当時すでに黒糖を用いた蒸留酒が島民の間でもこっそり造られていたことが推測できます」

現在、黒糖焼酎を造っているのは、奄美大島、徳之島、喜界島、沖永良部島、与論島の5島にある25蔵で、近年の出荷量は合計で年間約7500klとなっている。その中でも、水色のボトルが涼し気な黒糖焼酎「れんと」は、黒糖焼酎出荷数量1位を誇る人気銘柄だ。奄美大島で1996年に設立された「奄美大島開運酒造」の焼酎で、すっきりとした軽やかさと、まろやかな飲み口から人気を得ている。「れんと」は貯蔵タンクの中でクラシックを聴かせながら熟成させる。音の振動により熟成が進みやすくなり、味をまろやかにするという。また、開運酒造の蔵では、蒸留器の圧力を下げることで沸点が低くなる原理を利用し、40℃程度で蒸留する「減圧蒸留」という方法を9割の商品で採用している。

「『れんと』もこの減圧蒸留によるもので、昔ながらの常圧蒸留の黒糖焼酎に比べて口当たりが軽いことから、特に女性から好評です」と製造責任者、高妻淑三氏は言う。「日本全国の焼酎出荷量に占める黒糖焼酎の割合は、まだ非常に僅かです。国内外のもっと多くの方に、離島の希少なお酒の味を知っていただきたいです」

黒糖焼酎といっても、その香味は多様だ。減圧蒸留による黒糖焼酎が人気を集める一方で、昔ながらの常圧蒸留で造られる深いコクと香りをもつ黒糖焼酎を愛飲する人もいる。また、黒糖焼酎の原料となる黒糖もさまざまで、地元産の純黒糖だけを使用している銘柄もあれば、沖縄産や輸入黒糖を使用しているものもある。島によって水の硬度の違いもある。そうした違いを味わえることも黒糖焼酎の魅力だ。

「地域の集会所などで集まる際には、水割りがよく飲まれていますが、最近の若い世代はロックやソーダ割を楽しむ人も増えています」と、奄美群島のすべての蔵の黒糖焼酎を扱う「酒屋まえかわ」の前川晴紀氏は語る。「奄美群島の人々にとって、黒糖焼酎は島の宝であり、いつもそばにある空気のような存在なのです」