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Highlighting JAPAN

「核兵器のない世界」に向けて

世界唯一の被爆国である日本は、核軍縮・不拡散において、中心的な役割を果たしている。

1945年8月に広島と長崎に投下された原子力爆弾によって多くの人命を失った日本は、第二次世界大戦後、核兵器の使用による惨禍は決して繰り返されるべきではないという考えに基づき、核軍縮・不拡散を国の使命として取り組んでいる。

「『核なき世界』に向けた取り組みには、二つの車輪が存在します。一つは、『核なき世界』という理念を掲げ、核兵器の非人道性の国際規範を国際社会で広く共有し、核兵器の存在しない国際秩序を目指すという車輪です」と秋山信将・在ウィーン国際機関日本政府代表部公使参事官は言う。「もう一つは、現実に存在する核兵器の脅威に対し、現実的かつ具体的に対応し、その脅威を最小化するという車輪です。私は、この両者がうまく前進してはじめて、安心で持続可能な『核なき世界』が実現できると考えています」

日本の核軍縮・不拡散のための具体的な行動の一つが、国連総会での「核兵器廃絶決議」の提出である。決議は、1994年以来毎年提案されており、核兵器の廃絶に向けて、実践的かつ具体的な取り組みを着実に進めること、および核兵器国と非核兵器国が共同して行動することの重要性が盛り込まれている。今年の決議では、米国を含む108カ国が共同提案国になり、昨年を上回る167カ国が賛成した。反対は、ロシア、中国、北朝鮮、シリアのみであった。

この他にも、様々な国際的な場において、核軍縮、核不拡散を促進するための政治的なモメンタムを作り出す努力をしている。例えば、日本は国連安保理において、非常任理事国として、北朝鮮の核開発やミサイル実験を中止させるため、国際社会が一致して強いメッセージを北朝鮮に対して発せられるように、各国に働きかけている。また、核実験を禁止するため、国連総会で1996年に採択されたものの、現在も未発効となっている「包括的核実験禁止条約」(CTBT)に関して、その発効促進を担う発効促進会議の共同議長も務めている。

さらに、国際原子力機関(IAEA)が進める国際的な核不拡散体制、核セキュリティの強化に関する人材育成や知見共有の取り組みに積極的に関与している。例えば、日本は2010年にアジア地域の核セキュリティ強化を目的に、茨城県の日本原子力研究機構の中に「核不拡散・核セキュリティ総合支援センター」(ISCN)を設立するなど、原子力施設における物理的防護システムや核物質やその他の放射性物質に関する輸送など様々な分野において、各国関係者の能力強化を支援している。

なお、現在のIAEAの事務局長は、日本の外務省出身の天野之弥氏が務めている。天野氏は2009年の就任以来、核セキュリティの強化、北朝鮮の核問題、開発分野における原子力の平和的利用の推進などの課題に取り組んでいる。とりわけ、2015年にイランとP5プラス1が合意した「包括的共同作業計画」(JCPOA)の検証・担保に対して、IAEAも大きな役割を果たしている。

「今後は、IAEAがイランのJCPOAの履行を検証するという役割をしっかりと果たすことがイランの核問題の解決につながります。天野事務局長のリーダーシップのもと、IAEAがあらゆる関係国から信頼される活動をすることは極めて重要です」と秋山氏は言う。「核不拡散、核セキュリティは、『核なき世界』の基礎として、不可欠な要素です。これらの実効性が確保できなければ、核軍縮も不可能でしょう。世界には、核セキュリティを積極的に進めたいと国と、まだあまり関心が高くない国々があります。このギャップを埋め、国際社会全体であらゆる核の脅威を削減することで核なき世界を達成するという理念を共有できるようにするのが、日本の役割です」

現在、非核保有国を中心に、核兵器を法的に禁止するための動きが活発化している。それに対して核保有国は、核抑止が安定的な世界の安全保障の維持に必要と主張している。日本政府は、同盟関係にあるアメリカの核抑止を認めつつ、核軍縮を追求するため安全保障環境の改善に取り組むという立場である。 「『核なき世界』を実現する道筋は一つだけとは限りません。日本は今後も、実効性が確保できる措置を着実に進めていきます」と秋山氏は言う。「それと同時に、核保有国、核軍縮推進国のいずれとも積極的に対話をし、『核なき世界』の実現に近づけるための議論をリードする役割を果たすべきと私は考えています」