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Highlighting JAPAN

地震から高層ビルを守る

東京のある53階建ての高層ビルには、地震による長周期地震動に効果的な新しいシステムが改修工事で設置されている。

日本は古くから、何度となく巨大地震に見舞われてきた。内閣府の2014年の「防災白書」によれば、2004年から2013年の間だけでも、世界で発生したマグニチュード6.0以上の地震のうち、約2割(326回)が日本やその周辺で発生している。日本は地震の被害を抑えるために、長年にわたって観測態勢の整備、防災訓練の実施、建築物の耐震基準強化、防災教育など様々な対策を実行してきている。

地震によって倒壊や損壊しない建物の建設も、その一つである。従来、地震の揺れから建物を守るために、太く頑丈な柱に梁を使うことで建物自体の強度を高める「耐震」が行われてきた。しかし、この方法では、建物自体は倒壊・損壊を逃れても、その中にいる人、内装や設備に大きな被害が生じる可能性がある。そのため、近年は、「免震」や「制振」の技術の開発が進められている。

「免震は、建物の土台部分に積層ゴムのような柔らかい装置を入れて、地震の揺れが建物に伝わらないようにする技術です。建物は宙に浮いたような状態になっているため、大きな地震の際にも建物が変形することはありません」と日本の大手総合建設会社、竹中工務店の技術研究所で地震工学部長を務める山本雅史氏は言う。「制振は、建物内に、揺れを吸収するダンパーなどの制振装置を入れる技術です。建物は地面から直接支持されているため、地震の揺れは伝わりますが、制振装置が地震エネルギーを吸収するため、建物の変形は小さく、揺れも短時間で収まるようになっています」

多くの建物が倒壊した1995年の阪神淡路大震災以降、免震や制振の技術を取り入れた戸建て住宅やビルが数多く建設されるようになった。免震建築は一般的に、制振建築よりも地震の揺れを抑えることに優れている。ただ、積層ゴムなどの免震装置を建物と地面の間に設置するスペースが必要になる。また、建設コストもやや割高になる。一方、制震技術は、設置の条件が比較的緩やかである。

日本の建設会社は、建物の条件に合わせて、耐震、免震、制震の技術を取り入れた建物を造ってきた。しかし、2011年の東日本大震災によって、「長周期地震動」と呼ばれるゆっくりとした地震の揺れという新たな課題も明るみに出た。長周期地震動によって、震源から400㎞近く離れた東京都心部の高層ビル群が、大きな震幅で数十分にわたって揺れ続け、エレベーター内に人が閉じ込められたり、ビルの内装や扉が破損したりする事故が発生した。

「高層ビルや長大橋梁は、規模の大きな地震で発生する長い周期の揺れを受けると、共振を起こして大きな揺れが発生します。しかも、長周期の揺れは長く続くという特徴があります」と山本氏は言う。「もちろん過去の地震においても長周期地震動は発生していましたが、東日本大地震により社会一般の認識が深まったといえます」

この長周期地震動に対応した技術の研究も進んでいる。その一つが、竹中工務店と野村不動産が開発し、東京副都心に建つ新宿野村ビルに2015年に設置が始まった制振装置「デュアルTMD-NT」である。新宿野村ビルは1978年に竣工した高さ209.9m、53階建ての超高層ビルで、十分な耐震性能は持っているものの、長周期地震動を受けた時の揺れの大きさが問題となっていた。TMD(チューンド・マス・ダンパー)とは、建物の揺れとは逆方向に動くおもり(重量700トン)を用いて、建物の揺れを抑制する装置である。このTMDをビルの最上部(52/53階部分)に2基設置することにより、東日本大震災と同等レベルの長周期地震動が発生した場合の揺れ幅を20〜25%低減、揺れ時間を約50%短縮することを可能にした。長周期地震動対策に、揺れ幅が大きい時と小さい時それぞれに適した2つの機構もつ装置をビルに設置したのは、日本初である。

「デュアルTMD-NTの最大の特徴は、大きな地震の揺れだけでなく、台風などの強風によって発生する微かではあるが発生頻度の高い揺れも吸収できるところにあります。これによって住居でも、オフィスでも、超高層ビルの中にいる人の安全性や安心感は大幅に向上します」と山本氏は言う。「免震建築や制震建築は、専門技術者による定期的な点検も重要です。今後、私たちは最新技術の開発と併せて、長期にわたるサポートにも力を入れていきたいです」