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新幹線の安全・正確な運行を支える

高速鉄道である新幹線の定時運行率、安全性は非常に高い。

東海道新幹線が1964年に東京と大阪の間で運行を開始して以来、新幹線は日本国内の移動手段として欠かせないものとなっている。現在、その路線は北海道から九州南端の鹿児島県まで延びており、総延長は約3,300kmにおよぶ。

 新幹線は、最高時速約320㎞にも達する超高速走行、そして、卓越した安全性と正確な運行が大きな特徴である。その安全を支える技術の一つが、東海道新幹線の開業時から全区間に導入されている自動列車制御装置(ATC)である。 

「従来の鉄道とは違い、超高速で走る新幹線の場合、運転席から信号機を目視で確認することは不可能でした。そのために導入されたのがATCです」と東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)鉄道事業本部の恩田義行氏は言う。「例えば、前方の列車との車間距離が詰まったような時、運転席のモニターに信号が表示されるとともに、実際の減速・停止といった操作は運転士ではなく、機械が自動で行うようになっています」

開業時から現在に至るまで、レールを流れる信号電流を車体側で検知し、それによって運行速度を制御するというATCの基本的なシステムは変わりないが、その性能は約50年の間に飛躍的な進歩を遂げている。最も大きな進化は2002年からデジタル方式のDS-ATCを導入したことである。

従来のATCでは許容速度の信号が、地上に設置されている装置から、一定の区間ごとに走行している新幹線へ送られていた。そのため、列車は停車するまでに、区間ごとに段階的に強いブレーキがかかり、乗り心地が悪くなっていた。

「DS-ATCでは、列車に設置されている装置自らが、地上装置からの停止位置情報にもとづき、その列車の最適な速度を計算し、制御を行います。速度計算には、列車ごとのブレーキ性能の違い、線路の曲がり具合や勾配などの情報も加味され、スムーズに減速するようにブレーキがかかります」と恩田氏は言う。「そのため、減速・停止による時間ロスが少なくなり、乗り心地も大きく改善されています」

ATCと並び、新幹線の運行に欠かせないのが、JR東日本が1995年から導入している新幹線総合システム「COSMOS」である。その最大の特徴は、輸送計画、運行管理、保守作業管理、変電所制御監視、集中情報監視、車両管理、構内作業管理という新幹線の運行に不可欠な7つのサブシステムが相互に連携しあい、ひとつのネットワークとして機能していることである。

「JRグループの前身である旧国鉄から引き継いだシステムでは、運行管理や保守作業、車両管理といった分野を、それぞれ単独のシステムで管理していましたが、COSMOSでは一括管理しています」と恩田氏は言う。「例えば、線路の保守や車両の点検など、新幹線は従来の鉄道に比べると遙かに厳しいレベルで行われています。COSMOSによって、そうした情報が運行管理システムなどと完全にリンクしているのです。そのため、決められた保守や点検の作業が完了しないと、始発列車は動き出すことができないようになっています」

このほか、駅や線路沿いに設置された雨量計や風速計、レール温度計、変電所に設置された地震計などの情報もリアルタイムでCOSMOSが把握し、災害や気象変化などに応じて的確な運行管理を行っている。しかも、こうした情報は新幹線の中央指令所だけでなく、駅や車両基地など、様々な場所とネットワークで結ばれているので、緊急事態が発生した場合も、迅速な対応が可能となっている。

実際、2011年、未曾有の大被害をもたらした東日本大震災が発生した時も、被災地域を通る東北新幹線では27本の列車が営業運転中であったが、すべての車両は安全に停止し、1人の怪我人も出さなかった。また、2015年の統計によると、JR東日本管内を走る新幹線(1個列車)の平均遅延時分はわずか30秒にすぎない。 「COSMOSというのは、新幹線のために構築されたオーダーメイドの運行管理システムなのです」と恩田氏は言う。「これからも、新幹線の安全・正確な運行のために、さらに技術を高めていきたいです」