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Highlighting JAPAN

 

世界の強靱化に向けて


様々な自然災害に対して脆弱な日本は、継続的に国土の強靱化を行ってきている。内閣官房参与を務める藤井聡・京都大学大学院工学研究科教授に日本の防災の取り組みについて話を聞いた。

自然災害は日本人の精神性にどのような影響を与えてきたのでしょうか。

東日本大震災が発生した後、私はテレビで津波によって壊滅的な被害を受けた町で瓦礫の中から助け出される老人の映像を見ました。老人は晴れやかな笑みを浮かべて「チリ地震も経験している。また、一から作ればいい。大丈夫だ」と述べたのです。その町は、1960年に発生したチリ地震(マグニチュード9.5)による津波でも、大きな被害を受けていました。私は彼の言葉に日本人の持つ強靱な精神を感じました。日本人はこれまで繰り返し大災害を経験してきましたが、その度に社会を立て直してきています。そうした長い歴史の中で、日本人は災害に対する強靱な精神を培ってきたと思います。

東日本大震災を通じて、防災に関してどのようなことが重要と思いましたでしょうか。

例えば、リスク・コミュニケーションです。防災におけるリスク・コミュニケーションは、災害時の的確な行動を促し、平時からの備えや迅速な避難につなげることが目的です。地域や学校における防災教育はリスク・コミュニケーションの一つです。東日本大震災で津波に襲われた岩手県釜石市では、日頃から津波を想定した防災訓練が小中学校で行われていたので、登校していた児童・生徒はほぼ全員が無事でした。

また、地域の持つ知恵を受け継ぐことも重要です。岩手県宮古市のある村では、1933年の津波で被害を受けた後、海抜60mの場所に「此処より下に家を建てるな」という石碑を住民が建てました。それ以降、住民はその石碑よりも高い場所で暮らすようにしていたので、東日本大震災の津波で被害を受けることはありませんでした。また、過去の津波の高さを踏まえ建設された、高さ15mの水門、防潮堤によって、人々が救われた村もありました。

災害は例えば今日発生する可能性は低いかも知れませんが、短期的な視点により災害に対する備えを何も行わなければ、将来的に大きな被害を受ける可能性が高まります。防災には長期的な視点に基づいた教育の実施やインフラの整備が不可欠なのです。

2013年に制定された国土強靱化基本法の目的をお教え下さい。

法律の目的は、災害が発生した場合、社会が致命的な被害を受けることを避け、災害の被害を限りなく最小化し、同時に、被った被害を迅速に回復するという「強靱性」を確保することです。

この法律に基づき、2014年には「国土強靱化基本計画」が閣議決定されました。基本計画では、津波による多数の死者の発生、救援や医療活動のために必要なエネルギー供給の長期途絶、食料の安定供給の停滞など45の「起きてはならない最悪の事態」を設定しています。こうした事態を避けるため、府省庁横断的な「プログラム」を定めています。その上で、プログラムごとに脆弱性を評価し、それを改善するための方針を決めています。さらに、その方針をもとに、政府は毎年「アクションプラン」を策定し、プログラムごとに、向こう1年間で取り組むべき対策を計画し、アクションプランの進捗状況を把握し、評価を行っています。

具体的には、津波の被害を防ぐための堤防の整備、学校、病院、役所、上下水道、道路などの施設の耐震化が進められています。また、学校での防災教育のための副読本の作成や、災害などの緊急時に備え、各企業が自ら策定する、平常時から行うべき行動や、緊急時における事業継続や早期回復の方法をまとめる「事業継続計画」(BCP)策定の支援も行っています。

日本は世界の強靱化のために、どのような貢献ができるでしょうか。

例えば、日本の建設会社は世界最先端の耐震や免震の技術を持っています。こうした技術が世界に広がれば、地震の被害を減らすことができるでしょう。また、津波を早期に観測し、警報を発するシステムや、地震の激しい揺れの前に警報を発するシステムも、多くの国の防災に役立てることができます。

また、日本を含め、多くの国では大都市への人口集中が問題となっており、大都市で災害が発生すれば、被害も大きくなります。それを避けるために、地方への人口、産業の分散化が必要です。そのためには、日本の新幹線のように、安全性が高く、多くの人を一度に輸送できる高速鉄道の整備が非常に有効です。新幹線は日本だけではなく、世界の強靱化にも大きく貢献するでしょう。