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Highlighting JAPAN

災害リスクを知る

ネトラ・プラカシュ・バンダリ氏は約20年にわたって日本で災害リスクの研究を進めながら、母国に防災知識や技術を広める活動を行っている。

日本は国土のおよそ7割が山地であるため、大雨や地震による土砂崩れ、地滑り、崖崩れなどの土砂災害が頻繁に発生する。そうした災害リスクを抑えるために、ハード面、ソフト面から、様々な対策が行われている。例えば、砂防ダムや斜面をコンクリートで固める「法枠工」などの防災施設の建設、ハザードマップの作成や警報システムなどの整備などである。

日本の大学では数多くの研究者が、こうした土砂災害に対する防災技術の研究開発に取り組んでいる。ネパール出身のネトラ・プラカシュ・バンダリ愛媛大学大学院理工学研究科准教授もその一人である。

ネパールでは1993年の集中豪雨による土砂災害で、死者数は1300人を超え、被災家屋は4万戸以上にのぼるなど深刻な被害が発生した。バンダリ氏は、当時、インドの大学で学んでいた。研究を続けたいという強い願い持ったバンダリ氏は、ネパールで新設された工学大学の教員となり、約3年間働いた。そして、1997年に、1993年の災害の調査のために国際協力機構(JICA)の地滑りの専門家としてネパールに派遣された愛媛大学の矢田部龍一教授と出会う。これがきっかけとなり、バンダリ氏は1997年に来日、愛媛大学工学部で地盤工学の研究を始めた。

「愛媛県がある四国地方は地滑りの多発地帯です。この地域の地質を研究していると、ネパールの山地の地形や地質に似ていることに気がつきました」とバンダリ氏は説明する。「実際にネパールのある地域を調査してみると、四国地方と同じ特徴の地滑りが多発していたのです」

この調査結果を受け、矢田部氏やバンダリ氏など愛媛大学の研究チームは2000年から、ネパール中部の山地の地質や地滑りの調査、首都カトマンズが位置する盆地における地震災害リスクなどの調査を開始した。10年以上にわたる研究で、ネパールの自然災害に関する100を超える学術論文が発表され、18回にのぼる国際シンポジウムがカトマンズ市で開催された。

そうした中、2015年4月、ネパールはマグニチュード7.8の大地震に見舞われた。山間部では落石やがけ崩れ、地方や都市部では建物の倒壊により死者数は9,000人近くにのぼった。日本は地震発生後、ただちに緊急救助隊を派遣し救援活動を行うと同時に、援助物資を提供するなどの支援を行った。さらに、日本地震学協会、土木学会、地盤工学会、建築学会などの様々な専門組織が現地に赴いて調査を実施、大学機関も文部科学省の支援により、愛媛大学の矢田部教授をリーダーとした13人の調査団が結成され、4つ専門グループに分かれて現地調査が行われた。

2015年の地震以前にバンダリ氏と矢田部氏らの研究グループは、18歳から74歳までの124人への防災意識調査を実施した。調査結果からは、人々の防災意識の高まり、防災教育の重要性などが明らかになっている。研究グループは、調査結果をまとめた論文 "ネパールにおける人々の防災知識" を2015年2月にGeoenvironmental Disastersに発表した。この論文は2016年10月、「地盤災害軽減国際コンソーシアム」(ICGdR)から「2015年の最も優れた論文」を授与されている。

2015年7月には、愛媛県の多くの人々からの義援金や愛媛大学の卒業生の支援により、カトマンズに「愛媛大学サテライトオフィス・ネパール地震復興デザインセンター」が設立された。センターの目的は、被災地の被害調査や防災教育の普及である。ここを拠点としてバンダリ氏がもっとも力を入れているのは、地域、学校における防災教育の支援だ。

「防災施設の建設に加えて、人々の災害に対する正しい知識が、災害時の人的な被害を最小限にします」とバンダリ氏は言う。「日本では、幼稚園や小中学校でも避難訓練など防災教育が行われ、子どもでも高い防災意識を持っていることに驚かされます。災害の規模の大きさに比べ死傷者数が少ないのは、防災教育が大きく貢献していると思います」

バンダリ氏はセンターを拠点に、防災技術を普及する専門家の育成など、日本の防災教育をモデルにしたプログラムを作る計画だ。

「防災は公共のものです。防災は全ての人が平等に享受できなければなりません」とバンダリ氏は言う。「私はこれまで学んだ知恵と知識を、ネパールの様々な人に伝えていきたいと思っています。防災は良い社会を形作り、国の発展に繋がります」