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Highlighting JAPAN

建築を通じた地方創生

建築家の弥田俊男氏は、東京と岡山に拠点を置きながら、地域の文化的な資源を活かした地域創生に取り組んでいる。

現在、日本は東京圏への人口集中が進む中、急速な少子高齢化やそれに伴う人口減少、経済の縮小が問題となっている。こうした状況を改善するために、地方の活性化を目指す「地方創生」が日本の重要なテーマの一つとなっている。

そうした中、東京を中心に仕事をしていた人が、地方に拠点を作り、地方創生に取り組む人が増え始めている。建築家の弥田俊男氏も、その一人である。弥田氏は京都大学大学院修了後、1998年に、世界的な建築家、隈研吾氏の設計事務所に入社、東京のサントリー美術館、根津美術館や中国など海外での建築プロジェクトに携わった。

2010年に、岡山県の岡山理科大学から建築学科の准教授への就任を要請されたことがきっかけとなり、隈氏の事務所から独立、東京に自らの事務所を設立するとともに、東日本大震災の直後、2011年4月から、岡山理科大学での教育・研究活動を始めた。

「岡山で仕事をすることを決めた理由の一つは、東京と岡山という2つの拠点から様々なことを見たいと思ったからです。そうした矢先に震災が起こり、拠点を分散することの必要性を、より一層感じるようになりました」と弥田氏は語る。「岡山は自然災害も少なく、非常に恵まれた地域です。町も都会過ぎず、田舎過ぎず、ちょうど良い大きさです。また、日本各地へ行くための拠点としても便利です」

弥田氏は新幹線で3時間半程度かかる東京と岡山を往復しながら、写真家の妻と子供とともに、月の半分ずつを東京と岡山で暮らす生活を始めた。さらに、岡山の良さを地元の人々に知ってもらうため、岡山出身者と、岡山以外の出身者、合わせて10名ほどのメンバーで、NPO法人「ENNOVA OKAYAMA」を立ち上げた。

ENNOVA OKAYAMAは活動の一つとして、岡山市と連携し、廃校になった小学校とそこに隣接する石山公園を活用したプロジェクトを実施している。小学校では校舎や校庭を利用して、ワークショップやライブ、演劇などのイベントを行い、公園では、オープンカフェの運営や、食べ物、アクセサリー、衣服などを販売する店が集まるマーケットを開催している。

また、弥田氏は大学の准教授として、学生や地元と人々とともに、日本3大庭園の一つ、後楽園に隣接する出石町の「福岡醤油建物」の再生と活用に関するプロジェクトにも携わっている。福岡醤油建物は、明治時代(1868-1912)の中期から昭和時代(1926-1989)の初期にかけて建設され、醤油醸造所や住居として使われていたが、現在は空き家となっている。出石町のランドマークである福岡醤油建物を保存するために、弥田氏がメンバーとして加わるプロジェクト実行委員会は、近隣住民と建物を掃除したり、建物の活用について議論したりするワークショップを行っている。さらに、これまでに6回、建物で飲食が楽しめるイベントを開催した。

「建物は市内の一等地にあるので、保存活動を行わないと、取り壊されて、ビルが建ってしまう可能性があります」と弥田氏は語る。「この建物は、地域の魅力を生み出す拠点になり得ると考えています。この建物の保存、再生が成功すれば、この地域の魅力ある街作りに良い影響を与えるでしょう」

こうした岡山での活動と並行して、弥田氏は他の地域においても様々な建造物の設計に携わっている。例えば、1300年の歴史を誇り、世界遺産にも登録されている奈良の春日大社境内の宝物殿の増改築である。弥田氏が総監修を務めた増改築は2016年10月に完了し、「国宝殿」としてリニューアルオープンした。赤い色彩の巨大な太鼓が、新たに増築されたガラス張りのホールに据えられ、境内を歩く人々の目を引きつける建築となっている。

「東京と岡山を拠点に、今後も新しいことに取り組んでいきたいです」と弥田氏は言う。「私のように、2つの拠点を持つ人が増えれば、人と人との新たなネットワークやコミュニケーションが日本全国でさらに生まれ、日本全体の魅力がより一層高まると思います」