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Highlighting JAPAN

暮らしたくなる糸島

福岡県糸島市は、移住先として人気を集めている。

内閣府が2014年に行った世論調査によると、自分の住んでいる地域が都市と答えた人の中で、20歳代では52.3%、30歳代では57.6%、40歳代では51.2%が、地方に移住してもよいと思うと回答している。地方への移住の可能性を積極的に探る人も増えている。地方への移住支援を行う東京のNPO法人「ふるさと回帰支援センター」への相談件数は、2010年の約6,000件から、2015年には約21,000件と伸びている。

人気が集まっている移住先の一つ、福岡県糸島市(人口約10万人)は、他の地域から年間3,500人前後の転入者を受け入れている。糸島市は玄界灘の美しい沿岸に位置しており、素晴らしい自然環境に加え、九州最大の都市、福岡市へのアクセスの良さも移住者にとって魅力となっている。

糸島市は移住を後押しするために、市内で住宅を購入し、居住する人に対する奨励金制度を設けている。さらに、空き家の売買や賃貸の促進に役立つ情報満載のウェブサイトの運営も行っている。

「移住者には、従前から住む住民と協力して、地域を活性化して頂くことを期待しています」と糸島市地域振興課の担当者は語る。「実際、移住者が企画して、大きな成功を収めているイベントもあります」

そうしたイベントの一つが、「糸島クラフトフェス」である。糸島には20年程前、クラフト作家が30人程度移住していたが、現在、その人数は120人ほどに増えている。昨年9月に9回目を開催したクラフトフェスには、木工、陶器、革製品などの作家が出店し、多くの来場者で賑った。

糸島をシェアする

糸島の一角に、棚田と海の素晴らしい眺めを望むことができる全18戸の小さな集落がある。その集落で「いとしまシェアハウス」を2013年5月から運営している畠山千春さんと志田浩一さんも移住者である。埼玉生まれの畠山さんも、東京生まれの志田さんも、20歳代後半までほとんど都会で暮らしていた。しかし、2011年3月の東日本大震災をきっかけに、都会でのライフスタイルに区切りを付け、糸島へと移住した。

「豊かな自然、都心へのアクセスの良さ、移住者を快く受け入れてくれる地元の雰囲気など、糸島には移住に適したいろいろな条件がそろっています」と志田さんは言う。

自給自足のライフスタイルが特徴のシェアハウスには現在、2人を含め、料理人、翻訳家、ライターなど、20〜50歳代の男女8名が暮らしている。畠山さんと志田さんは近くの稲田を借りて栽培した米を食べている。また、2人は狩猟免許を持っており、イノシシをわなでとらえることもある。電力の一部は、自作のソーラーパネルで作られるエネルギーで賄っている。水は湧き水を利用している。

「夕食はみんなで1品ずつ作って一緒に食べるのがルールになっています」と畠山さんは言う。「糸島での生活で、『生きるための力』を身に付けることができました」

さらに、シェアハウスでは音楽会、稲作のワークショップなどのイベントが開催され、福岡県内外からも多くの人々が集まる。

シェアハウスの住人は農作業の手伝いや清掃などの活動を通じて、集落に溶け込んでいる。また、畠山さんと志田さんは集落の人たち全員をシェアハウスに招いて結婚式を挙げている。

「小さな集落で暮らすためには、地域の人々と良い関係を作ることがとても大切です」と畠山さんは言う。「将来的には、いとしまシェアハウスを、様々な人が互いに支え合って共同で生活する『コレクティブハウス』にすることが理想です。いつか生まれてくるであろう子どもも、糸島の集落の輪の中で育てたいと思っています。子どもとともに、糸島の未来へと歩んでいきたいです」