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Highlighting JAPAN

鉄道発祥の地・イギリスでの挑戦

鉄道発祥の地・イギリスで、日本の鉄道が高い評価を受けている。

1872年、新橋と横浜を結ぶ鉄道が日本で初めて開通してから、鉄道網は日本全国に広がった。その中で、日本の鉄道会社は、速度、信頼性、安全性、快適性を向上させるために様々な技術を開発してきた。そうして蓄積されてきた日本の鉄道技術は現在、インドのデリーメトロ、台湾の新幹線、ニューヨークの地下鉄など、世界各地に広がっている。

鉄道発祥の地・イギリスでは、日立製作所が開発した高速鉄道車両が、同国に広がる鉄道輸送の一端を担っている。日立がイギリスへの鉄道輸出に取り組み始めたのは1999年のことだ。

「当初は社内でも、“世界の鉄道ビッグスリー”(カナダのボンバルディア、フランスのアルストム、ドイツのシーメンス)が大きなシェアを占める鉄道市場に参入するのは並大抵のことではないと考えていました」と日立製作所鉄道ビジネスユニットの光冨眞哉氏は言う。「日本の鉄道の技術やノウハウをそのままイギリスに持ち込むことはできません。日本の技術をベースとしながらも、いかにイギリスの規格に合わせるかが、大きなチャレンジでした」

日立は2003年にイギリスで、同国の鉄道業界や契約交渉について豊富な経験と知識を持つ人物をリクルートした。さらに、イギリスで日立の車両の品質を再現できることを証明するために、駆動用電気装置を日本から持ち込んでイギリスの車両に取り付け、国内の鉄道ネットワークをくまなく試験走行させた。

「この試験車両は、1度も故障することなく、実証実験を無事に完了しました。私たちの車両が、日本とは環境の異なるイギリスにおいても十分に通用することが証明できたのです」と光冨氏は言う。

 こうした努力が実り、日立は2005年に、イギリス初の高速鉄道線で、ロンドン・アッシュフォード間を結ぶ高速鉄道線「Channel Tunnel Rail Link」(現在のHigh Speed 1)を走る車両「Class395」174両の製造・保守サービス事業の受注に成功した。Class 395は、2009年6月に、契約より約半年も早く納入することができた。また、2012年に開催されたロンドンオリンピックでは、ロンドン中心部からメイン会場までのシャトル便として使用された。早朝から深夜まで約7分間隔で運行したが、運休や遅延を一度も発生させることはなかった。

Class 395の品質、プロジェクト遂行能力が高く評価された日立は、さらに、イギリス企業との合弁で設立した「アジリティ・トレインズ社」を通じて、イギリス政府が進める都市間高速鉄道計画(IEP)向けの高速車両「Class800」の製造・保守サービス事業の発注にも成功する。IEPはイギリスの鉄道史上最大規模の予算で実施されるプロジェクトで、イギリスの主要幹線であるロンドンとスコットランドを結ぶ「イースト・コースト本線」と、ロンドンと西部イングランド、西ウェールズを結ぶ「グレート・ウェスタン本線」などの路線の高速鉄道計画である。日立は、866両の車両を納入し、約30年間の車両保守サービスを手がける。運行開始は2017年秋の予定だ。

「Class800」など、イギリスを走る高速鉄道車両の製造のために、日立はダーラム州ニュートン・エイクリフに鉄道車両工場を建設した。2015年9月、工場の開所式で、当時のデビッド・キャメロン首相は「ここイギリス北東部で、鉄道の父ジョージ・スティーブンソンまでさかのぼる鉄道の歴史に新たな工場が加わることをたいへん感慨深く思う」と述べた。

「鉄道車両は大量生産ができません。車両製造のノウハウをイギリスに伝えるために、イギリス人の工場責任者を日本に招いて、技術研修を実施しています」と光冨氏は言う。「私たちもイギリス人から、多くのことを学んでいます。お互いの強みを生かして、IEPをさらに良い鉄道にしたいです」

日立は2016年にイタリアで車両や信号などを製造する企業2社を買収、さらに鉄道運営企業との間で、新型の2階建て通勤車両を供給することで合意した。

「日立はヨーロッパで、ヨーロッパの企業になりつつあると思っています」と光冨氏は言う。「現在、当社はベトナムのホーチミンの都市鉄道建設に関わっていますが、今後はさらに新興国における鉄道インフラの整備にも貢献したいと思っています」