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Highlighting JAPAN

安全な出産のための超音波画像診断装置

沖縄の企業が開発した低価格の超音波画像診断装置が、アフリカで妊婦の産前検診に貢献している。

2015年に国連機関が発表した「妊産婦死亡の動向:1990-2015」によると、世界の妊産婦の死亡率は1990年に出生10万人当たり385人であったが、2015年には216人へと減少している。しかし、開発途上国だけで見ると239人で依然として高い(先進国は12人)。特に、サハラ以南アフリカは546人と世界で最も死亡率の高い地域となっている。こうした状況を改善するために、持続可能な開発目標(SDGs)では、2030年までに世界の妊産婦の死亡率を出生10万人当たり70人未満に削減するという目標を掲げている(目標3.1)。

この目標達成に、妊婦の産前検診で使われる超音波画像診断装置を通じて母子の安全に貢献しようとしているのがレキオ・パワー・テクノロジーである。超音波画像診断装置は、超音波を送受信するプローブと呼ばれる機器を妊婦の腹部に当て、胎児の状態を視認する装置である。日本の南部に位置する沖縄で2011年に創業した同社は、開発途上国、特にアフリカで事業を行なっている社員10名の企業である。

同社とアフリカとの関わりは、日本の外務省と国際協力機構(JICA)の支援を受け、自動車に医療機器を搭載した「Dr. カー」(移動型診療所)を北アフリカのスーダンに導入するプロジェクトに参加したことに遡る。

「長年、内戦に苦しんできたスーダンは、国を再建するために保健医療に力を入れていますが、超音波画像診断装置は非常に高価で、公の病院ですらほとんど導入できていません。世界で低価格の装置を製造している企業はほとんどありませんでした。そこで、小型化、低価格化した集積回路(IC)、そして日本の優れた製造技術を組み合わせれば、もっと安くできると思ったのです」とレキオ・パワー・テクノロジーの河村哲代表取締役は言う。

同社は2014年に開発をスタートし、ほぼ1年で「US-304」を完成させ、Dr. カーに搭載した。US-304は170gのプローブにUSBケーブルが付いたシンプルな作りで、ケーブルをパソコンに接続すれば、パソコンの画面で画像を表示することができる。価格も従来の装置の10分の1程度に抑えた。電源はパソコンのバッテリーで充分であり、電気供給が不安定な途上国でも安定的に使用可能である。

2015年には、このUS-304を使ったスーダンの母子保健を支援するプロジェクトがJICAの中小企業海外展開支援~普及・実証事業~「超音波画像診断装置を活用した母子保健の向上に関する普及・実証事業」として採択された。首都ハルツームで行われているプロジェクトでは、約50人の助産師に装置の使い方、画像診断の方法などの技術を教える研修を実施、研修を受けた助産師がそれぞれの病院や保健所で診断を行なっている。プロジェクトの開始以降、多い月では合計で約500人の妊婦がUS-304で検診を受けており、出産時に帝王切開が必要な異常が発見されるケースもある。

「事前に異常が分かれば、出産時の危険を減らすことができます。また、検診で自分のお腹にいる赤ちゃんの画像を見ると、妊婦自身の健康管理に対する意識も高まります」と河村さんは言う。

US-304は、スーダンに加え、ケニアの病院や国連機関でも購入され、試験的なものも含めると、現在約30カ国で使用されている。

レキオは、今年中にプローブの操作動画、超音波画像、画像診断の結果などの情報を集めたデータベースを構築し、US-304の利用者が妊婦の診断に活用できるサービスを開始する予定である。そのデータベースを参照しながら診察をしてもらい、医師や助産師の診断技術の向上につなげることが目的だ。さらに、同社は3年後を目指し、このデータベースを使い、人工知能で自動診断につなげるシステムの開発に取り組んでいる。

「私たちのような小さな企業が継続的に収益を上げることができれば、この分野に参入する企業も増えるでしょう。そうしたビジネスの拡大が、SDGsへの貢献にもつながると思います」と河村さんは言う。

レキオは今後、超音波画像診断装置を使える人材をさらに増やすために、パソコンで誰でも簡単に技術を学べる教育ソフトウェアの開発にも力を入れていくこととしている。