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Highlighting JAPAN

e-ラーニング「Surala Ninja!」

クラウド型学習システム「Surala Ninja!」が、途上国の子供たちの基礎学力を伸ばしている。

小学生向け算数クラウド型学習システムが、所得格差による教育格差の負のスパイラルを断ち切ることを目指し、海外に導入されている。

日本企業による、SDGs達成に貢献するビジネスは少なくない。海外用の小学生向け算数クラウド型学習システム「Surala Ninja!」も、その優れたビジネスモデルの一つだ。これは世界の子供たちに人気の高い日本の「忍者」というキャラクターを用いたe-ラーニングシステムで、2008年に発売された日本版の「すらら」を海外向けにアレンジして誕生した。低価格で高品質の教育を受けられることが特長となっている。開発、販売を行っている株式会社すららネットの湯野川孝彦代表取締役社長はこう語る。

「『すららネット』及び『Surala Ninja!』の大きなコンセプトは、様々な事情で学校に通っていない子供が、先生が介在しなくても算数を理解できることです。従来のe-ラーニングは、学力が中程度以上で、経済的にも恵まれた子供向けに作られたものがほとんどで、学校にも通っていない低学力の子供がスモールステップで体系的に算数を学べるよう一貫したコンセプトで作られたものはありませんでした」

同社は、2014年、独立行政法人国際協力機構(JICA)による貧困層が抱える課題の解決に貢献するビジネスの協力準備調査(BOPビジネス連携促進)事業の採択を受けたことをきっかけに、2015年、スリランカのスラム地域に初めて「Surala Ninja!」を用いて子供たちに算数を教える学習塾「Surala JUKU」を開校した。現在はスリランカに17の「Surala JUKU」を展開し、各塾に低所得者層の子供を中心とした50~100人の生徒が通っている。そのほかインドネシアやインドの一部でもこの学習ソフトを用いた授業が行われている。

「Surala Ninja!」にログインすると、アニメーションが始まる。”ハヤテ”という名前の忍者を主人公とするキャラクターが動きだし、声優によるクリアな声で、子供たちに問いかけたり、場面に応じて「よくやった」とほめてくれるなど、インタラクティブなスタイルで、適度な緊張感を保ちつつ、楽しみながら学習を進められる。学習を進めるごとにランキングが表示されて他の生徒と競い合えたり、画面上でメダルをゲットできたりといった、子供が夢中になるゲームの要素を取り入れたことも大きな特色である。

また、授業で学んでいなくても分かるよう緻密に設計された”超スモールステップ”な授業で、確実に「分かった」という達成感を得ることができる。

こうした塾の運営に欠かせないのが指導者である。すららネットは、BOP層の女性を対象に預金や融資、保険事業に取り組む現地NGOの「女性銀行」と提携し、現地の貧困層の女性から、各校2名ほどのファシリテーター(講師)を採用している。当初は、すららネットのスタッフが日本から派遣されてファシリテーターの教育研修を行なっていたが、最近では現地スタッフによる研修も行なわれるようになっている。

ファシリテーターのフレンドリーで熱心な対応が好評となり、アンケートでは96%の保護者がファシリテーターを「とてもよい」と高く評価している。一方、ファシリテーターへのアンケートでは、92%の人が、収入が増えたと回答し、全員がこの仕事に満足していると答えた。

湯野川さんはこう続ける。

「所得格差が教育格差に直結するという、負のスパイラルを解消しなければなりません。我々がBOP層をターゲットとした事業を進めているのは、その理念に基づいています。途上国において大多数を占めるこの層の子供たちには高いパフォーマンスが潜在し、その基礎学力を伸ばすことが、国の発展成長にダイレクトにつながると思います」

 2017年5月には、この事業が日本企業の優れたSDGsビジネスを表彰する「SDGsビジネスアワード2017」(一般社団法人BoP Global Network Japan主催、金沢工業大学平本研究室共催)においてスケールアウト賞を受賞した。

貧困、教育、ジェンダーの平等――。この3分野の解決に貢献する先進事例として、「Surala Ninja!」に国内外の注目が集まっている。