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Highlighting JAPAN

 

女性が作る日本市場


労働省(現・厚生労働省)で「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下、男女雇用機会均等法)の制定に関わり、現在公益財団法人21世紀職業財団会長を務める岩田喜美枝さんに、女性活躍社会についてお話を伺った。

様々な分野で活躍する女性が増えていますが、どうお考えでしょうか。

女性の活躍がやっと始まったという印象です。大都市圏の大企業を中心に正規女子社員活用の熱が上がってきています。

女性活用の議論は40年ほど続いています。1970年代から80年代は男女平等を巡る議論が中心で、それを象徴するのが1986年施行の男女雇用機会均等法でした。これによって企業は形式的な体制を整えましたが、経営課題としての女性活用に本気ではありませんでした。90年代から2010年頃までは、出産や育児による女性の退職を示す「M字カーブ」が議論の中心で、少子化による労働力人口の減少をどう補うかが焦点でした。この議論を象徴するのが1992年施行の「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(育児・介護休業法)です。しかし、バブル経済崩壊当時の企業には雇用の余剰感があり、女性活用が社会問題ではあっても企業にとっては自らの問題と認識していませんでした。

そして、現政権になって女性の活躍が経済成長戦略の中核に位置付けられたことで、企業は変わりました。これまでの女性活用の在り方では持続的成長ができない、競争に負けてしまうという認識を持つようになったのです。まだまだ課題は多いですが、この気付きはとても大きいと思います。

その課題とはどういうものでしょうか。

「仕事の継続」(M字カーブの解消)と「女性のキャリアアップ」(役員や管理職に占める女性の割合の上昇)です。前者は、大都市圏の大企業を中心に改善していますが、一方、地方、中小企業、非正規社員は「仕事の継続」がまだ当たり前にはなっていません。後者に関しては、上場企業の役員・管理職に占める女性比率は役員3.4%、管理職13%(2016年)という状況です。日本企業は、人材育成に長い時間をかけるため、「キャリアアップ」については目に見える効果はまだ先のことになるでしょう。

女性の活躍には環境整備が必要です。

女性の「仕事の継続」や「キャリアアップ」の実現のための最大の障害は日本の長時間労働です。高度経済成長期は長時間労働が業績アップに直結しましたが、今は違います。企業は何を作っていいかわからない時代で、いかにして新しい価値を探して市場を獲得するかという競争をしています。これは長時間働けば答えが出るというものではありません。

長時間労働に加え、根強い男女の役割分担意識が変われば、放っておいても女性は活躍すると確信しています。

長時間労働の問題解決の糸口はどこにあるでしょうか。

企業はこの問題に取り組んでいますが、ノー残業デーやオフィスの消灯時刻の設定などの表層的なものにとどまっています。売上・利益に直結するような優先順位の高い仕事に人と時間を充て、一方で優先順位の低い仕事を思い切って減らさない限り問題は解決しません。同時に、属人化されがちな仕事のプロセスの標準化や簡素化が重要です。そもそも男女の違いは子育てや介護で受ける時間制約だけです。時間制約がある女性が活躍できる環境を作る、これが働き方改革なのです。つまり、女性の活躍推進と働き方改革とは一体のものとして取り組まなければなりません。

政府や行政の役割については、いかがでしょうか。

一企業では対応できないことがあります。一つは、今申し上げた男女の役割に対する社会意識です。これは、男性が家計の主たる担い手で女性は家事や育児や介護を担うという社会常識で、これが続く限り女性の活躍は困難です。最近の相当程度の若い男性の間では、家庭の方が大事あるいは家庭と仕事の両方が大事という意識が高まっています。政府が主導して社会全体の意識改革に取り組む必要があります。

もう一つは保育施設の問題です。一部の大手企業は独自に保育所を設けていますが、どの企業でもできることではありません。これは政府や自治体に対策を進めていただくしかありません。

女性のキャリアアップについて、お考えを教えてください。

男女を問わず、仕事の体験を通じて力をつけるしかありません。女性には、経験不足や自信の無さから、または失敗を恐れて、難しい仕事、異動、管理職への昇任を断るケースがあります。仕事の経験を積むことこそが女性のキャリアを作るということを、会社も上司も女性自身もよく認識して対応する必要があります。

一方、起業する女性も増えています。かつては出産や育児で仕事を断念した女性が主婦の経験を活かして起業することが多かったのですが、近年は若い世代の男女がIT能力を駆使しアイディアで起業するケースが増えています。女性のIT能力が伸びれば、さらに女性たちが起業家となる機会が増えるでしょう。

女性の活躍に限らず、ダイバーシティを高めることが企業の成長に重要と聞きますが。

企業は長い間、新卒採用の日本人男性が中心になって業務を進めてきました。しかし、これではモノカルチャーでイノベーションを起こすことは難しいと思います。女性も男性も、年齢も国籍も、新規採用も中途採用者も、属性や経験が異なる人材が集まり、多様な情報、価値観やネットワークを集積することが企業の成長に大切です。

ソニー株式会社の創業者の一人、故井深大さんがイノベーションは常識と非常識がぶつかるところで起きるとおっしゃっています。この言葉を借りれば、日本人男性中心の長時間労働によって社内に蓄積したものが常識です。これはもちろん大事なものです。しかし、この常識に対して非常識をもたらすのが女性や外国人や中途採用者です。これまであまり活躍できなかった彼らを取り込むことでイノベーションが起きるのだと思います。