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Highlighting JAPAN

ものづくりの愛のために

若い女性起業家が、世界に知られた日本家電業界に新しい風を送り込んでいる。

大手メーカーがしのぎを削る日本の家電業界で、小さなベンチャー企業が成果を上げ注目を集めている。2015年7月に設立された株式会社UPQ(アップ・キュー)である。同社は、若い女性がたった一人で創業したことから、「女性一人家電メーカー」とも呼ばれている。

UPQの特徴の一つは、一般的な家電メーカーと異なり、自社工場や倉庫を一切持たず、製造は複数の海外企業に委託し、そこから国内の取引先に直接納入することである。製造工程から流通管理の手間を省くことで、商品開発から販売までスピーディに行える。同社が設立直後に発表したスマートフォンや4Kディスプレイなど17種類24製品の企画立案から製品発表までわずか2か月だった。

UPQ代表取締役の中澤優子さんは、「UPQの製品が多くのユーザーに好評だったのは、何よりまず私自身が『ものづくり』を心から楽しんでいるからだと思います。商品企画から開発、製造、販売まで、大きな流れすべてを自分で把握、管理しているため、そこには『自由』だけではなく大きな『責任』があるわけです。だからこそ、寝る間も惜しんで真剣に仕事に取り組むことができるのです」と語る。

中澤さんは大学では経済学を学び、卒業後は大手電機メーカーのカシオ計算機株式会社で携帯電話の商品企画担当として活躍していた。しかし同社が携帯電話事業から撤退すると同時に退社し、東京の秋葉原でカフェを経営しながらUPQを設立した。

「そもそもカシオ計算機に就職したのは、携帯電話の開発に携わりたかったからです。私が携帯電話を初めて手にした中学1年生の時から大学を卒業するまでの10年間は、携帯電話の普及や性能向上が一気に進んだ時代で、私自身も40台近い携帯電話を次々と買い換えるヘビーユーザーでした。その経験を仕事で活かせるに違いないと思ったのです」と中澤さんは言う。

理系の男性かつ年長の技術者ばかりの職場で、彼女は唯一の文系出身の女性だった。それは、彼女がユーザーに極めて近い立場にあったということでもあり、彼女の意見やアイデアは商品開発において非常に重要な役割を果たすことになった。ものづくりの現場で過ごした5年間は、彼女の人生における次のステップにとても大切な糧となった。

退職金でオープンしたカフェは、オリジナルのパンケーキなどが人気を集める行列店となったが、彼女はそれに満足することはなく、むしろものづくりの現場に戻りたいという思いを持ち続けていた。きっかけは不意に訪れた。カフェを通じて、何人かのベンチャー企業の起業家と知り合い、彼らのノウハウを学ぶ機会を得たのだ。彼女の強い想いは、小さな家電メーカーの設立という形で一気に現実のものとなった。

「カフェの次に家電メーカーを起業するというと、大抵の人はびっくりします。でも、私にとって新たなものを企画、製造、販売するという点で大差はないです。いつも私が最も大切にしているのは、商品を目の前に差し出された時、消費者がそれを即座に『欲しい』と感じる気持ちです。それはパンケーキでも、家電製品でも全く変わらないのです」と中澤さんは言う。

 UPQの製品はスペックや価格ばかりではなく、ユーザーの使い勝手や機能性、デザインにも徹底的にこだわっており、発売と同時に高い評価を得ている。中澤さんは日経WOMAN(女性誌)が主催する「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2016」の「次世代ものづくり賞」を受賞した。その後も、同社は折りたたみ式の電動バイクや充電ができるバッグなど、既存の家電商品の範疇を超えた新製品を次々と市場に送り出している。中澤さんは今後の目標を次のように語る。

「『いったいUPQは次にどんな商品を出してくるのだろう?』 消費者にそんな期待を持ってもらえるようなブランドにUPQを育てていきたいと思っています」

若き女性起業家によるユーザー視点の企画力が、日本のものづくりにワクワクする新製品だけでなく新たなモデルを示そうとしている。