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Highlighting JAPAN

世界に広がる日本型工学教育

日本の経済発展を支えてきた工学教育が、世界の人材育成に貢献している。

日本は、特に明治時代に、欧米の技術の導入とともに指導者を招き、近代化を進めてきた。それを支えた一つに工学教育がある。1871年に、現在の東京大学工学部の前身が設置されて以降、全国に工学系高等教育機関が設立され、大学や民間企業で活躍する研究者や技術者が育成され、その後の発展を支えた。

日本はそうした経験を活かし、現在、2010年のエジプト日本科学技術大学の設立に始まり、これまで培ってきた「日本型工学教育」を実践する高等教育機関の設立運営を中心に様々な支援を行っている。

近年、特に協力が進んでいるのが、ASEAN諸国である。例えば、2011年、マレーシア政府の協力要請を受け、マレーシア工科大学の傘下に日本型工学教育機関としてマレーシア日本国際工科院(以下、MJIIT)がマレーシアの首都クアラルンプールに開講された。マレーシアは経済成長を牽引してきた組立・加工産業から、製品設計や研究開発など付加価値を生み出す産業へと転換を図っており、MJIITは、その重要な役割を担うことが期待されている。

「マレーシアの産業界は、製造業のニーズに合わせた企画や設計のできる人材を必要としています。例えば、生産性の高い工場の製造ラインを設計できるような技術者です。そうした人材を育成することが、MJIITの重要なミッションの一つです」と国際協力機構(JICA) 高等・技術教育チーム企画役の三浦佳子さんは言う。

MJIITでは現在、機械精密工学や電子システム工学などの学部・大学院で1200名以上が学んでいる。教員数は82名で、そのうち13名が日本人である。日本の27大学、2研究機関、外務省、文部科学省、経済産業省、日本商工会議所、JICAによってコンソーシアムが組織されており、MJIITへの教員派遣、共同研究、学生交流活動、学生の共同指導、日・ASEAN統合基金によるASEANの留学生向けの奨学金支給などで協力している。JICAは、円借款や技術協力を通じて、MJIITの教育・研究用機材の調達、大学間や産業界との連携活動などを支援している。

その他、MJIITの特徴の一つが、「Innovative Kohza」(i-Kohza)と呼ばれる研究・教育システムである。「Kohza」は、日本の工学教育の核となる研究室である。欧米の大学の工学教育は、コースワークや個別指導が中心であるが、日本では、教授をトップとして、博士研究員、大学院生、大学生などが研究室のメンバーとなり、研究室毎に専門的な研究・教育が行われる。MJIITでは、「先端集積デバイス・材料工学」、「化学エネルギー変換・応用」、「高砂熱環境システム工学(高砂熱学工業(株)による寄付講座)」など、19のi-Kohzaが開設されている。

「i-Kohzaに参加する学生は、教授だけでなく先輩の学生からも研究ノウハウを学ぶことができます。グループ研究により、学生はチームワークやコミュニケーションの能力も高められます」と三浦さんは言う。

MJIITはコンソーシアムのメンバー大学と協力し、教育・研究分野の範囲を広げている。例えば、メンバー大学の一つ、山口大学は2016年にMJIITと共同で国際連携知財講座を設立し、世界最高水準のデータインフラが導入されているMJIITで、マレーシアの知財関連の人材育成を進めるとともに、MJIITを東南アジアにおける知財研究の拠点にすることを目指している。

また、2014年にマレーシアで発生した大規模水害後、防災関連の人材育成と研究を目的に、MJIITに防災科学研究センターが設立された。筑波大学や京都大学などのメンバー大学が協力し、同センターではマレーシア国内初となる行政官等を対象とした防災管理の大学院修士課程が2016年9月から開始されている。

この他、2016年にベトナムのハノイで開校した日越大学でJICAはベトナムのニーズに応じた日本の質を活かした、ベトナムの新たなCenter of Excellenceといった新しいモデルの大学設立を支援している。日越大学は、社会科学や自然科学といった持続可能な科学の全体的な領域をもカバーする多分野の学際的プログラムを提供し、学生に幅広い視野を与えている。日本の大学が、カリキュラムの作成や実際の教育・研究活動を支援し、日越大学に高品質なプログラムを提供し、日本型工学教育を取り入れ新たなモデルを提供する大学を目指した支援を行っている。また、調整段階後の2003年からアセアン工学系高等教育ネットワークプロジェクトを開始しており、現在、日本の14校の支援大学とASEAN諸国の26校のメンバー大学の間の共同研究、学位取得、教員の派遣などの活動を推進している。

「プロジェクトを通じて、大学間のネットワークを強化することで、各大学の教育、研究能力の向上を図るとともに、環境汚染、気候変動、自然災害などASEAN諸国共通の課題に取り組みます」と三浦さんは言う。

日本の工学教育は、経済成長を支え、様々な先端技術の発展を推進し、その一方では成長の負の面として浮上した公害問題の克服に貢献し、さらには防災などの課題克服に貢献を続けている。そうした知見が、発展を続けるASEAN諸国のみならず、さらに広く世界で共有されることが期待される。