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Highlighting JAPAN

東京の地下の安全

東京にある地下鉄の会社は、自然災害発生時に鉄道インフラと乗客を守る、幅広い対策を導入している。

1927年、アジアで初となる地下鉄が東京に開業して以来、路線網は広がり続け、現在、13路線、304kmが東京の足を支えている。主要路線を預かる東京地下鉄株式会社(東京メトロ)は9路線(179駅、195km)で運行、1日当たりの乗降客数は720万人を超える。さらに、7路線で東京の郊外へ伸びる他社路線との相互直通運転を行っている。

「地下鉄は東京の交通を支える重要なインフラですから、安全で安定した運行が不可欠です。自然災害に備え、発生時には被害を防ぐと同時に早期の運行再開を実現する対策を推進しています」と東京メトロ安全・技術部の町田武士さんは語る。

東京メトロは、自然災害対策の中でも特に地震対策と浸水対策に力を入れている。1995年の阪神・淡路大震災では、京阪神地区の高架橋や地下鉄トンネル内の中柱などの構造物が大きな損傷を受けた。これを受け、もし東京で地震が起こっても同様の被害を発生させないために東京メトロは構造物の耐震補強工事を実施した。2011年の東日本大震災で東京は大きな被害を受けなかったが、首都直下型地震に備え、追加の耐震補強工事を実施している。

また、列車走行中の大規模地震発生への備えとして、二種類の地震警報システムを併用し、地下鉄を緊急停止させる体制を整えている。一つは、地下鉄路線沿い6箇所に設置している地震計が一定以上の大きい揺れを予測あるいは実測した場合、もう一つは、気象庁の緊急地震速報を受信した場合である。

 「東日本大震災では、東京で大きな揺れが起こる前に気象庁の緊急地震速報を受信し、約170本走っていた全路線の列車を緊急停止することができました。その後、全路線で安全点検を行い、地震発生から約6時間後に順次運転を再開しました」と町田さんは語る。

東日本大震災は午後2時46分に発生し、続いて地下鉄は運行を停止したため、東京では多くの人々が帰宅困難となった。この教訓を踏まえ、東京メトロは帰宅困難者用の約10万人分の非常用飲料水、アルミ製ブランケット、簡易マット、携帯用トイレなどを各駅に配分して備えている。また、全ての駅の改札口付近に、日本語、英語、中国語、韓国語の4言語に対応するデジタルディスプレイを設置し、事故や災害情報を乗客に提供しているほか、ホームページやツイッターを活用した情報発信も強化している。

地下鉄の交通網に影響を及ぼす自然災害は地震だけではない。東京メトロは、高潮、大雨、河川氾濫による地下鉄構内への浸水を防ぐため、例えば地上の地下鉄出入口に最大105cmの止水板を格納するなどの備えを進めている。さらに洪水の危険が高い地域では、駅の出入口を歩道より高い位置にかさ上げし、出入口全体を閉鎖できる防水扉も設けている。この他、歩道上に設けられている換気口には遠隔操作可能な、最大6mの浸水に耐えられる浸水防止機を設置するなど、万全を期している。

システムや装置といったハード面の対策に加えて、東京メトロでは駅員や乗務員などに災害時の対応について様々な訓練を行っている。乗務員の研修を行う総合研修訓練センターでは、実際の駅と同じ設備がそろっている模擬駅、訓練用の列車がトンネル内を走行する運転実習線、実車に近い運転訓練ができるシミュレータなどの設備を整え、事故や災害が発生した場合の対応方法について、実践的な訓練を行っている。

「東京は様々な自然災害に見舞われてきましたが、幸いこれまで自然災害が直接的な原因となって多数の死傷者を伴う地下鉄事故はありません。引き続き最大限の対策を行い、地下鉄の高い安全性を確保します」と町田さんは言う。

今後、東京メトロは大規模災害に備え、他の交通機関、自治体、警察署、消防署などの組織や地域住民との連携をさらに強化する計画である。