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Highlighting JAPAN

豊かな海の復活プロジェクト

行政、企業、NPO、学識者や住民・市民等が、一丸となって、かつての美しく豊かな大阪湾を再生している。

大阪湾は、瀬戸内海の東の端に位置し、明石海峡及び紀淡海峡の2箇所の湾口を持つ閉鎖性海域である。その特徴は、後背地に六甲山や生駒山といった500から1000メートルクラスの山があるとともに、多くの河川が流れ込む広い集水域を持っている。

大阪湾は2府5県に及ぶ多くの人口と産業が集積しており、産業、貿易、漁業の場としての役割を担ってきた。1955年頃までは、多数の海水浴場や潮干狩りが楽しめる砂浜があり、人々は海を身近に感じていた。しかし、高度経済成長期には、臨海部は埋立てが進み、物流・生産拠点として活動が活発になるとともに、自然海浜、藻場・干潟等が縮小・消失し、海水が停滞しやすい水域が発生するようになった。また、周辺の人々の暮らしを守るための海岸保全施設の整備も進められ、湾奥部では人口増加や産業発展とともに、海の汚濁やゴミの増加が起こり、海洋生物への生息環境が悪化していった。

2001年12月、内閣府地方創生推進事務局による都市再生プロジェクト「海の再生」に位置付けられ、2003年7月に、行政が主体となった大阪湾の環境改善に取り組む「大阪湾再生推進会議」が設置された。以降、水質汚濁の改善に向けた海の再生や大阪湾に流れこむ河川、森林の整備など住民、市民やNPO、学識者、企業等の多様な組織と連携して大阪湾の再生に取り組んでいる。

「大阪湾奥部には重化学工業地帯など多くの埋立地に大工場が建てられ、埋立地工事の影響による海底にはえぐれた窪地、埋立てによる潮流の変化などにより、貧酸素水塊、富栄養化に伴う青潮・赤潮の発生も見受けられるなど大阪湾の環境に影響を与えたのでないでしょうか」と、国土交通省近畿地方整備局企画部技術企画官の松井善樹さんは話す。

大阪湾再生推進会議は、かつての美しく、親しみやすい、豊かな海「魚庭(なにわ)の海」に向けた取組を進めており、陸域、海域、調査のグループに分かれ、環境再生に向けた活動に取り組んでいる。海域では窪地の埋め戻し、陸域では森林や下水処理施設の整備等、調査グループでは改善効果を把握するために水質・生き物一斉調査を行い、大阪湾の環境状況を把握するための活動も取り組んでいる。

「大阪湾の再生は行政だけでの取組では限界があり、大阪湾の背後圏域に位置する滋賀や京都のような内陸に位置する市民、住民の方々の理解も必要です。内陸部に降った雨、雪解け水も、滋賀県の琵琶湖から淀川を通じて大阪湾に注いでいます。大阪湾に直接面していない地域の方々にも、環境に負荷をかけないような、ごみの減量化であるとかきれいな水を流す工夫とか日常生活にも密接しており、環境に関する意識が重要です」と松井さんは話す。

美しく親しみやすい豊かな海の復活、住民、市民にとって誇らしい大阪湾の再生を目指し、大阪湾再生推進会議は産官学等の多様な主体と連携・協働を図りながら活動に取り組んでいる。例えば、市民向けのフォーラムやイベントを開催して大阪湾の状況を知ってもらう取組を行っているほか、市民団体が中心となって取り組んでいる「大阪湾生き物一斉調査」では、多くの市民が参加し、大阪湾の水環境を把握するために25団体1098名が参加して活動している。調査では、様々な貝や魚の他にイルカの仲間であるスナメリも確認されている。

「豊かな海を取り戻すためには長い時間と労力が必要です。私たちが次の若い世代に綺麗な海を引き継ぐため、行政機関を中心に大阪湾の再生に向けて、工夫を凝らしながら、取り組んでいきたいです」と松井さんは話す。

引き続き、大阪湾再生推進会議では大阪湾再生に向けて市民、住民の意見等を参考にしながら活動を推進していくこととしている。