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Highlighting JAPAN

海上保安を学ぶ

日本はアジアの海の安全を確保するために、海上保安機関の人材育成と国際連携を促進する教育プログラムを実施している。

中東とアジアを結ぶ海上交通路は、石油、食糧、製品などの物資を運ぶタンカーやコンテナ船が行き交い、日本のみならず世界経済にとって極めて重要な航路である。しかし、この海上交通路の海域では、海賊、密輸、海難事故、環境汚染などが発生しており、海上における安全の確保が大きな課題となっている。

これらの課題を解決するために、日本は海域沿岸国に対して様々な支援を行っている。例えば、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムなどの国々に巡視船艇を供与している。また、独立行政法人国際協力機構(JICA)と海上保安庁(JCG)は協力して、各国の海上保安機関の職員向けに、海上犯罪取締、救難・防災、水路測量などに関する研修を日本で実施しているほか、海上保安機関の組織強化や人材育成を支援するために、JCGの職員をJICA専門家として各国に派遣している。

2015年からJICAとJCGは、国立大学法人政策研究大学院大学(GRIPS)と連携して「海上保安政策プログラム」を実施している。これは、JCG及びアジア各国の海上保安機関の初級幹部職員を対象とする約1年間の修士プログラムで、海上保安に関する高度な実務的、応用的知識、分析・提案能力、国際コミュニケーション能力を持つ人材を育成するとともに、各国との連携強化を図ることを目的としている。海上保安機関の職員向けの修士プログラムは世界的にも珍しい。これまでに二期が修了し、日本、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムからの研修員計16名に修士の学位が授与されている。

研修員は、最初の半年間、東京にあるGRIPSで国際海洋法、安全保障論、国際関係論などの基幹科目を学び、残りの半年間は広島県の海上保安大学校で救難防災政策、海上警察政策などにより海上保安実務に密接した科目を学ぶ。また、プログラムを通して、研修員は修士論文に相当するポリシー・ペーパーを執筆する。

海上保安政策演習についてのケース・スタディーの授業では、海賊、海上における油流出など海上保安に関する様々な事例が取り上げられ、各研修員が与えられた事例に対する解決方法を考え、研修員同士で議論することが重視されている。

「それぞれの国で宗教や文化、制度が異なるため、研修員同士で意見が衝突することもありましたが、議論や共同生活を通じて相互理解が深まり、研修が修了した今でも同期として強い絆で結ばれています」と第一期プログラムに参加したJCG国際教育訓練係長の小野寺寛晃さんは言う。

2017年10月からスタートした第三期プログラムでは、JCG、フィリピン沿岸警備隊、マレーシア海上法令執行庁、マレーシア海事局、スリランカ沿岸警備隊(SCG)の職員計7名が学んでいる。

研修員の一人、ラジンダ・ダニエルさんはSCGで管理業務を担当している。スリランカ沿岸は、豊かな海洋資源を生かした漁業や観光が盛んであり、海上交通の輸送路としても重要な海域となっている。日本はSCGに、巡視船艇の供与や海洋環境保全のための技術移転など様々な支援を行っている。

「油流出の防止や対応に関するJCGの研修のお陰で、スリランカの油流出対策は大きく改善しました。海上保安政策プログラムでも、日本から多くの政策を学べると思い応募しました」とダニエルさんは言う。

来日して約半年が経ち、ダニエルさんは、国際法の知識や海上で発生した問題の対処法などに加え、各国の研修員との意見交換を通じて、国際的な観点から物事を分析するスキルの向上につながっていると語る。

「ポリシー・ペーパーは、スリランカでは十分に整備されていない“海洋での捜索・救助”をテーマに研究する予定です。帰国後、この研究で得られた成果を母国の政策に生かしたいです。日本で得た知識を多くの後輩にも伝えたいと思います」とダニエルさんは言う。

平和で安全な海のためのネットワークが、海を越えてアジアに広がっている。