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Highlighting JAPAN

農村に泊まってその土地を知る

豊かな自然の残る日本の田舎で農村に泊まれば、その土地、文化、そして人をより深く知ることができる。

岩手県遠野市は、人口28,000人の町で、遠野という名前は文字通り、「遠い野原」を意味する。ファストフード店やホテルチェーンはなく、人々は特徴のある方言で喋る。また、遠野は民話の里として知られ、様々な妖怪と人間との伝説が語り継がれている。

遠野市は観光客を呼び込むため、農村での宿泊という地域の特色を生かした取組を続けている。

遠野駅から田園地帯への道は野原を抜け、小川に沿って進む。目的地は立派な瓦屋根の大きな農家である。玄関近くには、手押し車、鍬、積み重なった篭や薪が見える。農家の主である菊池貴久子さんが「いらっしゃい!」と声をかけてくれた。

遠野市はある大手ビールメーカーに最も多くホップを提供する地域の一つであり、菊池さんの畑でもホップが育てられている。他にもピーナッツや米が栽培され、向こう側には大きな野菜畑が広がっている。4月下旬はギョウジャニンニクとフキノトウが食べ頃である。夕飯は菊池さんと一緒に台所に立って野菜を切り、魚を焼く。

NPO法人遠野山・里・暮らしネットワークの菊池新一会長は、農泊の取組がこの地域を活性化させることを願っている。同ネットワークは遠野市の農泊プログラムを運営しており、現在約140軒の農家が登録している。目標は伝統的な文化を維持しながら、地域を盛り上げることである。遠野市の農泊プログラムには年間約2,000人が訪れるが、菊池会長はもっとたくさんの人を受け入れられる力があると感じている。

「遠野は真の日本、日本の故郷です」と、菊池さんは言う。「昔からの遠野は今も生きています。農泊プログラムの参加者は遠野での暮らしに共感し、そのことが住民の故郷に対する誇りを高め、伝統を守り、世界と分かち合う活力を与えてくれます」。

日本で田舎の文化と農家の暮らしに浸ることができるのは、遠野市だけではない。農泊滞在中に体験できる食や食文化の魅力を集中的に海外に発信し、訪日外国人旅行者を誘客するための取組として、農林水産大臣がエリア認定をするSAVOR JAPAN(参照) という制度がある。全国で15の認定地域の一つが徳島県のにし阿波地域である。ここでは、斜度40度にもなる山深い急斜面で耕作される、ひえ・あわ・そばといった雑穀を中心とした多様な農耕システムが400年に渡り受け継がれており、国際連合食糧農業機関の世界重要農業遺産にも登録されている。

にし阿波地域の農泊プログラム参加者は、築100年を超える建物の持つ雰囲気を残しつつ内装をモダンに改修した古民家に宿泊するだけでなく、この地で生産された農産物や山間部に生息する鹿や猪を使った伝統的なジビエ料理を住民と一緒に楽しむことができる。

さらに、この地域は独特な地形と気候によって生み出される幻想的な雲海、大歩危・小歩危の渓谷を体感できるラフティング、藍染めにより発展した江戸時代から続くうだつの町並みなど、豊かな観光資源も魅力である。

遠野の菊池会長は、日本の農家の大半が日本語しか話せないことは問題ではないと考えている。スマートフォンがコミュニケーションをずっと簡単にしてくれるからである(参照)。菊池貴久子さんも同じ考えで、「農泊ではコミュニケーションを大切にしています。ただ眠って、食事して、さようならというわけではありません」と彼女は言う。「私は英語を一言も喋れませんが、私には心があります」。その証拠に、彼らのおもてなしの心に触れたプログラム参加者たちは何度でもその農村に帰ってくる。