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Highlighting JAPAN

生き生きと動く歴史

大井川鐡道の蒸気機関車の旅は、いにしえの列車へとつなぐノスタルジックな体験である。

静岡県にある2路線、65キロメートルを走る大井川鐵道は通称大鉄(だいてつ)とも呼ばれ、日本では「SL列車」として知られる蒸気機関車を全国に先駆けて動態保存(姿を消すことになった鉄道車両を、運用可能な状態で整備・保存)した。

英国から日本へ最初のSL列車が持ち込まれたのは1872年のことである。1900年代前半に広く使用されたが、1950年代に日本が電気機関車やディーゼル機関車などに切り替えたことを機に需要が減り、姿を消していった。

日本の重要な列車の文化を失ってしまわないように、大鉄は1976年にいち早くSL列車を復活させ、観光路線として運行している。今日では、美しく復元された3タイプのSL列車を、ほぼ毎日運行している。

東京から1時間半ほど離れたJR東海道線の「金谷駅」を下車し、ホームを移動するとたどり着くのが大井川鐵道の「金谷駅」である。乗客は厚紙でできた切符を手にかつての日本の鉄道を感じることができる。列車ファンや歴史ファンにとっては大切な思い出の一部となるに違いない。

「金谷駅」から5分ほど電車に乗ると大井川鐡道の主要駅である「新金谷駅」に着く。駅のプラットフォームに止まったSL列車の姿は非常に印象的である。乗務員が石炭を窯に投入し、その後、象徴的な高音の警笛とともに大きく蒸気が渦巻き、煙が吹き出す。往復の運行でおよそ1トンもの水を消費するという。旅客車両は落ち着いたインテリアからなり、広々とした座席と、景色を楽しんだり涼しい風を送り込んだりできる大きな窓が設置されている。

車内では、記念写真撮影サービス、SL列車限定のおもちゃやお菓子の販売なども行われており、まるでお祭りのような気分になる。専務車掌は「SLおじさん」「SLおばさん」と呼ばれ、とてもフレンドリーである。ハーモニカを演奏し、アカペラで様々な歌を歌うパフォーマンスは大井川鐵道の名物となっている。一年のうちのある期間は、子供に人気のきかんしゃトーマス号とその友人のジェームス号のSL列車が大井川本線の新金谷駅~千頭駅の区間を走る。

路線によって景色は変わる。井川線は千頭駅から井川駅までの起伏の激しい山岳地域を走り、国内で最も急な傾斜で列車を引き上げるためラック式鉄道を用いている。大井川本線は金谷駅と千頭駅の間を運行しており、大井川にかかる吊り橋の下や川の土手沿いなどを、一時間半かけて走る。夏には、青々しい茶畑が日光を反射して光を放っているように見える。

千頭駅で降車し、バスに乗り次いで近くの寸又峡へ行けば、木々の中を通り抜け「夢の吊り橋」まで眺めの良いハイキングをすることができる。長さ90メートル、高さ8メートルの橋は、大井川の支流である寸又川の光り輝く青い水の上で揺れる。
大井川鐵道の乗車はロマンチックでノスタルジアな体験そのものである。その運行は技術と自然からなる、過ぎ去った時間へのオマージュであり、生き生きと動く歴史である。