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Highlighting JAPAN

 

保津峡の四季を展望できるトロッコ列車

京都を代表する紅葉スポットの嵯峨嵐山を発着として、保津川渓谷の景色をたっぷりと堪能できる亀岡までの約7.3kmを、およそ25分で走る嵯峨野観光鉄道は「トロッコ列車」の愛称で親しまれる人気の観光列車である。

廃線になった旧山陰線を、京都の新しい観光資源として活用できないだろうか──京都府からのこうした打診をきっかけとして、トロッコ列車を運行する嵯峨野観光鉄道は1990年、わずか9名で発足した。廃線後しばらく放置されていたため、当時はレールがさび、枕木は腐り、路肩は崩れて草木が生い茂る荒れ放題の状態であった。そのような中、まず取り組んだのが沿線の整備・清掃だった。著名な桜守である佐野藤右衛門さんの協力を得て、地元住民と共に桜の植樹をしたり、楓の苗を植えて回った。そして翌年の1991年4月、車両・線路・施設の保守点検から、切符の販売・改札業務、果てにはトイレ掃除までも9人で切り盛りしつつ「おもてなしの心」をモットーに、第1号のトロッコ列車は出発した。

元々は荷物運送用であった箱型の小型貨車を、旅客用に改装した嵯峨野トロッコ列車は、ディーゼル機関車に引かれ、平均時速約25㎞でゆっくりと走る。少し速めの自転車くらいの速度である。「トロッコ嵯峨駅」を発車してから3分ほどで「トロッコ嵐山駅」に到着し、そこからトンネルを抜けると、突如ダイナミックな渓谷美を見せる保津峡が現れ、列車は減速を始める。最初の景観スポットである嵐山温泉周辺である。他にもプラットホームが川の上にあるのが珍しいJR保津峡駅、保津川橋梁辺りで徐行運転が行われ、絶え間なく湾曲する断崖を心ゆくまで楽しむことができる。

黄色と赤を基調としたクラシカルな雰囲気を持つ、アールデコ風の5両編成の客車は、木製の椅子と裸電球だけでノスタルジックを演出するシンプルかつ素朴な内装である。また、窓ガラスのないオープン車両「ザ・リッチ号」(5号車・前売り券はなく当日予約のみ)は、正に風と光と音を肌で感じられる、貴重な“特別席”である。

最もオンシーズンと言われているのは、11月の紅葉と、3月末から4月初旬の桜の時期である。特に、沿線がライトアップされ、夕方以降の臨時列車も運行される紅葉時は、4人掛けのボックス席が一車両に15〜16設置されているが、連日満員となり、多い時には1日5千人もの乗客が訪れる。だが、「それ以外のオフシーズンに、夏の新緑、早秋の深緑、冬の枯野や雪景色と、四季それぞれに違った風景を味わうのもおすすめです」と嵯峨野観光鉄道・総務部の広報担当者は語る。

トロッコ列車の停車駅の周辺にも魅力は多い。「トロッコ嵯峨駅」から世界遺産である天龍寺や竹林、さらにはレンタサイクルを使えば、念仏寺やわらぶき屋根の民家などがひっそりたたずむ奥嵯峨まで足を伸ばしてみることもできる。終点の「トロッコ亀岡駅」からは馬車に乗って乗船場へと向かい、保津川下りを体験することもできる。また、静寂に包まれた無人駅「トロッコ保津峡駅」で途中下車し、その見事なまでの自然の彩りを味わい尽くしながら、トレッキングにチャレンジしてみるのも楽しい。京都に立ち寄る際は、保津峡の美しい四季を感じることができる、のんびりとした列車の旅を是非ともプランに組み込んでみてはいかがだろう。