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Highlighting JAPAN

 

 

視覚障がい者と健常者の垣根を越えるブラインドサッカー

ブラインドサッカーは、視覚障がい者と健常者が「音」と「声」を頼りとして一緒に戦うスポーツである。その統括を国内で一手に担う特定非営利活動法人(NPO)と現役のプレイヤーから話を伺った。

ブラインドサッカーとは「視覚に障がいを持つ選手がプレーできるよう考案された5人制サッカー」のことである。パラリンピックの正式種目で、2020年の東京パラリンピックには、ホスト国として日本代表チームが出場する。フットサルを基にルールが考案されているが、「揺れたらガシャガシャと音が出るボール」を使用したり、「選手がピッチの大きさや向きを把握するためにサイドには腰の高さの壁」が設置されていたり、「ディフェンスがボールを奪いに行く時に『ボイ!』(スペイン語で『行くぞ』という意味)と声をかけて知らせる」などの特徴がある。

2002年から特定非営利活動法人日本ブラインドサッカー協会の設立に参画し、現在事務局長を務める松崎英吾さんがブラインドサッカーに深く関わるようになったのは、偶然訪れた奈良県で“パス交換”を体験したからだった。健常者である松崎さんは「目が見えていたら簡単にできることが目隠しをするだけでできなくなり、こうも“声の掛け合い”が重要になるのか」と大きな衝撃を受けたと言う。まさに、健常者と障がい者がフラットにつながる瞬間だった。

ブラインドサッカーの試合は、視覚障がい者と健常者が共に協力し合わなければ成り立たない。例えば、味方に指示を出す役割も果たすゴールキーパーに限ってはアイマスクの着用を免除され、視覚に障がいのない晴眼者か弱視者が担当することが多い。また、敵陣ゴールの後方に「ガイド」、グラウンドのサイド中央には「監督」と、一人ずつ声を出すことが許される晴眼者を立てることができる。「我々は、背の高い人に棚の上の荷物を取ってもらうみたいに、視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う世界を目指しています。それをブラインドサッカーを通じて実現したいのです」と松崎さんは想いをはせる。その一環として、全国からB1(全盲クラス)21チームが集うリーグ戦に関しては、今では2名までの健常者起用が許されていたり、健常者の参加をより積極的に呼びかける『マーブルカップ』も年2回ほど定期的に行ってきた。さらには、年400〜500回にも及ぶ一般の小学校での体験学習『スポ育』や、年50回に近い大人の健常者向けの体験型プログラム『OFF T!ME(オフタイム)』も主催し盛況である。

視覚障がい者スポーツは、接触や衝突を避けるための様々な制限を設けるのが通常である。しかし、2002年からブラインドサッカー日本代表の中心メンバーとして活躍する『たまハッサーズ』所属の黒田智成選手は言う。「僕は街に出るときは白杖を持ち、周囲を確認してゆっくり歩く必要があります。でも、ピッチの中では自由に考え自由に走り回ることができる。その開放感を全身で感じられることや、勝つという同じ目標をもって障がい者と健常者の垣根がなくなるのが、本当に楽しいのです」

「試合中、観客が声を出すことをマナー違反とする静かなピッチで、ゴールを決めた時に大歓声に包まれる瞬間はブラインドサッカーの醍醐味の一つです。多くの人を感動させられるこのスポーツをもっと知って体感してもらいたい」と松崎さんは語る。あと2年に迫る東京パラリンピックで、世界中の人々と一緒に『静寂と熱狂』を体感できるかもしれない。ピッチの中で、そして外で、協会が目指す「視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会の実現」に、今後ますます近づいていくことだろう。