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Highlighting JAPAN

 

 

ウィッグの無償提供で子供たちの笑顔を守る

ヘアドネーション(髪の毛の寄付)を募り、18歳以下の子供たちに医療用ウィッグを無償で提供する国内唯一のNPO法人JHD&C(ジャーダック)。その代表理事である渡辺貴一さんに設立の経緯や今後の展望について話を聞いた。

美容師として国内外で活躍し、2008年11月、自身のサロンを開業すると共にヘアドネーションの活動をスタートさせた渡辺貴一さん。その理由について渡辺さんはこう語る。「ただ髪を切ってお金をもらうだけなら、普通の美容室が1軒増えるだけ。せっかくなら、美容師をなりわいとしてきた自分だからこそできる活動がしたいと考え、アメリカにいた頃に知ったヘアドネーションを始めることにしたんです。ゴミとして捨てられるはずの髪をリサイクルできれば、髪に対する恩返しにもなりますからね」。ウィッグの中でも子供用のものは数が少なく高額であることから、脱毛症や小児がんなどを患う18歳以下の子供を対象に、フルオーダーメイドの医療用ウィッグを無償で提供するため、2009年9月、NPO法人「Japan Hair Donation & Charity(JHD&C)」を立ち上げた。

その後、サロンワークと並行して、ホームページやブログで髪の毛の寄付を呼びかけ、協力企業を募り、賛同サロンを増やす取組を精力的に行った。けれど、ヘアドネーションに対する国内の認知度はまだ低く、届くのは週に数件程度、最初の1年間はウィッグが欲しいという希望者も現れなかった。変化が訪れたのは、2011年3月11日の東日本大震災である。つらい現実を目の当たりにした多くの日本人が、何か自分にできるボランティアはないかと考えた結果、髪の毛を寄付することに行き着いた。さらに、SNSの普及や有名芸能人の寄付も追い風となり、JHD&Cの活動は徐々に広まっていった。

2012年3月、ついに第1号のウィッグが完成し、小児がんの治療をしている高校3年生の女の子に手渡された。そのときの様子について渡辺さんはこう振り返る。「ウィッグをつけた彼女が、鏡を見ながら『こんなにしっかりと自分の顔を見たのは久しぶりです』と言って笑ったんです。それが、18歳という多感な年頃の彼女のつらい闘病生活を物語っているようで、胸に迫るものがありました」

こうした取組の中で、渡辺さんが大切にしていることは、髪をあげたい人(ドナー)と髪をもらう人(レシピエント)の思いを対等につなぐことである。そのため、レシピエントにも、ウィッグを受け取り、身に付けた時の写真を送るようお願いしている。レシピエントの写真がドナーの喜びとなり、髪をもらってくれてありがとうという感謝の気持ちにつながるからである。

これまでに提供したウィッグは306個、賛同サロンは3500店を超え(2018年12月7日現在)、ヘアドネーションは既に一つの文化として根付き始めている。けれど、渡辺さんが思い描いているのは、ウィッグが必要とされない世の中だという。「子供たちがウィッグを必要とする理由の一つが、髪の毛が無いことに対する偏見や差別から自分を守るためなんです。病気に対する理解が進み、髪の毛が無くても普通に生活できるようになれば、ヘアドネーションそのものが必要なくなるのかもしれませんし、そういう世の中になることが私の一番の願いです」
誰もが生きやすい優しい社会を目指して、渡辺さんはこれからも「今できること」を続けていく。