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Highlighting JAPAN

 

日本の風呂文化の多層的な魅力を再発見

エッセイスト岸本葉子さんは食やライフスタイルなど日常生活を題材にしたエッセイや本を執筆する傍ら、日本銭湯文化協会理事としても活動している。日本の暮らしに根付いた入浴や銭湯などへの思い等を伺った。

日本において、入浴とはどのような役割を持つのでしょうか。

日本は高温多湿で、火山灰による土ぼこりなども多い風土から、行水や入浴は日常的に行われました。宗教的な「清め」とも結びつき、清潔維持と健康増進の役割を果たすようになりました。

入浴の歴史は神道や仏教との関係が深く、神道の禊(みそぎ)文化がもともとあったところに、仏教の「斎戒沐浴(さいかいもくよく)」、つまり修行として身を清める考え方が入ってきました。一般の人々に向けても寺院は「施浴」を行いました。体の汚れを落とす目的ではありませんでしたが、これを通して人々は入浴のもたらす清潔さと病気治癒の効果を知りました。

古代から中世にかけては蒸し風呂が中心で、その点ではヨーロッパに広く見られるサウナ式の公衆浴場や、療養のためのスパ、ハーブ浴などと似ているかもしれません。温泉は、農民が農閑期に疲れた体を休める湯治習慣として昔から存在したのです。山間部や沿岸部では、川や湖での沐浴、生木や海藻を用いた蒸し風呂など、自然環境での入浴文化がありました。江戸時代に都市部で銭湯が発達し、始めは浅い湯で蒸気をためる、半分湯浴みで半分蒸気浴という形式だったところ、やがてお湯の量が増え、現在のような湯船に深く浸かるスタイルが生まれたのです。

日本の入浴の特徴は、入浴の頻度とお湯の温度の高さ、浸かる時間の長さにあります。おおむね41〜43度の湯に、日々長時間浸かることに価値を置いています。忙しい現代日本人が自宅のお風呂でテレビ鑑賞や読書をし、長湯するなどの風潮は、お風呂が神経を休める効果を自然と感じ取って、ストレスを和らげているのかもしれません。

岸本さんの、銭湯や温泉への思いとは。

日本の銭湯や温泉には、文化的な意義も大きいのです。建物などの施設のみならず、そこでの振る舞いもまた日本人の精神を表す行動文化であり、丸ごと文化遺産と言っても過言ではありません。日本のお風呂は家族や他者とのコミュニケーションの場であり、マナーなどの教育の場でもあります。後に入る人のことを考えてお風呂を綺麗に使い、整頓する。あまねく人に開かれた公衆浴場では様々な年齢層の人たちと「裸の付き合い」をし、まさに日本的な「義理と人情」の世界でもあります。その表れとして、1960年代後半以降、内湯(家庭のお風呂)が普及してもなお、銭湯は地域コミュニケーションの場として機能しています。

また、銭湯施設にはアート的な楽しみもあります。唐破風屋根や格天井は、関東大震災以後に宮大工が手掛けて人気の様式となったもの。坪庭や縁側、脱衣カゴの竹細工から職人の技と遊び心が表れたタイル絵・彫刻など、神社仏閣の建築様式からアール・デコ風まで100年近い日本の芸術を銭湯で凝縮して体験できるのです。

内湯の普及に燃料代の高騰や後継者難などが重なり、銭湯の数は減っていますが、今その魅力と価値が再発見され、客足は持ち直しているのです。海外から訪日される皆さんには、是非日本の銭湯を体験していただき、先述の建築・アート、そして日本人の他者への気遣いや譲り合いなどの精神と行動文化といった、有形・無形の文化両方見出していただければ嬉しく思います。