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Highlighting JAPAN

 

 

初心者でも演奏を楽しめるAI伴奏者

誰もが演奏することを楽しめるようにと作られたヤマハの「Duet with YOO」は、AIが人間の演奏をリアルタイムで解析し、その人の弾き方に合わせた伴奏をしてくれるAI合奏技術である。

「Duet with YOO」は、人間が弾くピアノ演奏に伴奏をつける体験型インスタレーションである。初心者が指1本で1音ずつで弾いた「きらきら星」も、伴奏がつくことでぐっと華やかになる。しかも、指がもたついてしまう所では少しペースを落とし、わんぱくに弾いた時はわんぱくに、そっと弾いた時はそっと、というようにプレイヤーのテンポや強さに合わせて伴奏も変化する。

伴奏部分を演奏するのは自動演奏ピアノ「Disklavier™(ディスクラビア)」だが、機械的な感じはしない。それはYOOのAIがプレイヤーの演奏を聞いて、瞬時に解析したデータに基づいて演奏を予測・調整しているからである。ヤマハが開発した「AI Music Ensemble System(人工知能合奏システム)」を組み込むことで、演奏の正確さよりも、人間が演奏する楽しさを追究した。

「鍵盤が光ってリードしてくれるキーボードもありますが、それでは音を1音ずつ追いかけるだけです。たとえ間違えて弾いてしまったとしても、いい感じの伴奏で盛り上げてくれれば演奏はより楽しくなります。その音楽的な楽しさをピアノを弾いたことのない方にも体験して欲しいので、楽譜通りに正確に演奏することよりも、人間的な揺らぎの再現やプレイヤーの意図をくみ取るところに力を入れて開発しました」と、本プロジェクトにおいてマーケティングを担当するヤマハの新竹美奈子さんは話す。

Duet with YOOはビギナー向けに作られているが、当初はビギナーを意識していたわけではなかったと、YOOのAIを始めとした技術開発を担当するエンジニアの前澤陽さんは話す。「私は趣味でバイオリンを弾くのですが、家で一人で練習している時に伴奏してくれる伴奏者が欲しかった。上手なプレイヤーほど演奏に明確な意図があるものですから、メトロノームのように正確なリズムを刻むだけの伴奏ではなく、自分の演奏の意図や抑揚に合わせて付いてきてくれる伴奏者を作ろうと思いました」と、開発当時を振り返る。

元気な弾き方、寂しげな弾き方など数値化が難しい演奏の特徴については、実際に様々な弾き方で実演して、多くの演奏データを学習させた。

また、「どれくらい人間に合わせるか」というさじ加減にも苦労した所だと言う。「人間が弾く音に1音1音ピッタリ追いかけられても気持ち悪いもので、アンサンブルは楽しめません。そこで最終的には、ある程度AIにも意思を持たせることにしました。アンサンブルの楽しさは演奏者同士の駆け引きにもあり、ソロパートの時は『俺の音を聴け!』となるし、相手がソロパートを弾く時は『付いていきます』となる。そのように出るべき所は出て、引くべき所は引くというようなパラメータを加えて、プレイヤーが気持ち良く弾けるよう設計しました」と前澤さんは話す。

ヤマハでは、人工知能合奏システムを使って20世紀の巨匠ピアニストであるスビャトスラフ・リヒテル氏の演奏データを自動演奏ピアノに取り込み、ベルリン・フィルとのアンサンブルを実現している。このようにAIに演奏データを与えれば、憧れの音楽家と一緒に演奏することも可能になる。

「AIは人の仕事を奪うと危惧する人もいますが、YOOのように、人間にインスピレーションや気付きを与えるAIもあります。そこから新しい表現や音楽が生まれるような体験を、これからも提供していきたいと考えています」と、新竹さんは明るく語った。