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Highlighting JAPAN

古き良き蒸気機関車の旅

茨城県と栃木県の県境付近を走る真岡線は、のどかな田園風景を車窓から眺めたり、途中下車して伝統工芸を体験したり、地域の自然や文化を楽しむのにはうってつけのローカル線である。土曜と日曜、祝日に蒸気機関車が牽引する「SLもおか」に乗れば、さらに楽しい旅となる。

真岡線は、茨城県筑西市の下館駅と栃木県茂木町の茂木駅までの41.9kmを結ぶ路線である。その歴史は古く、1920年に全線が開通した。現在は栃木県や真岡市などの地方自治体、商工会議所、農協、銀行などが出資する第三セクター「真岡鐵道株式会社」によって運営されている。

真岡線では通常、下館駅と茂木駅とを約1時間15分でつなぐ1両編成の列車が運行されているが、観光の目玉として、毎週土曜と日曜、祝日には蒸気機関車が3両の客車を牽引する「SLもおか」が走っている。1994年から運行を開始したSLもおかは、下館駅と茂木駅の間を1日1往復しており、全国から多くの鉄道ファンを集めている。

非電化路線である真岡線には架線や架線柱がないため、車内から景色を見る時にも沿線から列車の撮影をする時にも視界を遮るものがない。鉄道の電化が進む以前の鉄道の姿を見ることができる点がSLもおかの魅力となり、沿線には望遠レンズカメラを構えた鉄道ファンがずらりと並ぶ。

「SLもおかは、日本で蒸気機関車が現役だった頃の時代を思い起こさせます。春には桜や菜の花、夏にはアジサイ、秋にはコスモスなどの花々が咲き、冬には雪化粧した景色の中を走ります。真岡線では、のどかな雰囲気の中で、ゆったりとした旅を楽しむことができます」と真岡鐵道総務部の竹前直さんは言う。

真岡線の17の駅舎のほとんどは沿線の田園風景になじむ小さな無人駅であるが、真岡線の拠点駅である真岡駅はユニークな建物として知られる。1997年に改築された駅舎は4階建で蒸気機関車の形を模しており、正面と側面に大きな丸いガラス窓がデザインされている。真岡駅のすぐ隣には、真岡駅と同じく蒸気機関車の形を模した「SLキューロク館」がある。2013年に開館したSLキューロク館には、全国各地で活躍していた蒸気機関車やディーゼル動車などの列車が展示されている。北海道を走っていた1920年製造の「9600形」と、1938年製造の「D51形」の蒸気機関車は動態保存され、「9600形」は毎週土曜と日曜、祝日にそれぞれ1日3回、圧縮空気を動力源として、数十メートルの距離をデモンストレーションで運行する。

真岡線の沿線には、明治・大正時代の貴重な歴史的建築物群が現存する「久保記念観光文化交流館」、露天風呂を楽しめる「真岡井頭温泉」、新鮮な野菜や地元の農産物を使った加工食品を購入できる「道の駅もてぎ」など様々な観光地がある。特に人気が高いのは益子駅のある益子町である。質の良い陶土が産出される益子町は、江戸時代末期から益子焼の生産地として発展してきた。素朴で温もりある益子焼は主に、水瓶、壺、食器などの日用品として作られており、現在、町内には窯元が約250、陶器店は約50ある。ろくろを使った陶器づくりを気軽に体験できる窯元も多い。益子が特に大勢の来訪者でにぎわうのが、5月と11月に開催される益子陶器市である。通常の店舗に加え、500以上のテントが立ち並び、様々な陶器が販売されることもあり、計60万人以上が訪れる。

久保記念観光文化交流館で地域の歴史を学び、真岡井頭温泉の露天風呂でくつろぎ、道の駅もてぎでお土産を買い、益子で陶器づくりを体験し、白い煙を勢いよく吹き出し汽笛を響かせながら走る美しい蒸気機関車に乗れば、地域の魅力をたっぷり堪能できる旅となるだろう。