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Highlighting JAPAN

ハラールへの取組が開く多文化共生の扉

訪日ムスリム旅行者が徐々に拡大している。多様な宗教的、文化的習慣を有する旅行者を受け入れることが、おもてなしを超えて多文化共生の扉を大きく開くことにつながろうとしている。

2003年、日本政府は約521万人の訪日外国人旅行者を2010年までに倍増させるビジット・ジャパン・キャンペーンを策定した。その後、2016年には、2020年に4,000万人、2030年に6,000万人に増やす政策目標を立て、2018年末現在、その数は3,119万人に達した。そのうち約86%をアジアの旅行者が占めた。中でも今後の伸びが期待されるのがイスラム教を信仰するムスリムの多いマレーシアとインドネシアである。ムスリムは世界人口の23%を占める16億人(2010年時点)の規模である。2013年のビザ緩和などがあり、2003年にそれぞれ6万5千人前後だったマレーシアとインドネシアからの旅行者は、2018年には、それぞれ約47万人、40万人にまで増加した。政府は、ムスリム旅行者が礼拝はもちろん、安心して日本料理を楽しめるような環境を整備しつつ、ムスリム旅行者の拡大を目指して、2018年に「訪日ムスリム旅行者対応のためのアクション・プラン」を策定した。

最近は、主要な空港や駅などの公共施設にムスリムのための祈祷室や礼拝時の方角を示すキブラが設置されるようになり、「ハラール認証」製品も増えてきた。ハラールはイスラム法で合法、許されたものを意味する。

特定非営利活動法人日本ハラール協会の理事長レモン史視(れもん・ひとみ)さんは、このハラール認証の普及に取り組んできた一人である。彼女は、20代の頃にマレーシアで就職し、そこでイスラム教徒となった。5年間のマレーシア生活の後、彼女はドバイに渡り起業したが、2008年のリーマンショックのあおりを受け、同年、日本に帰国した。

「ムスリムは、豚肉、イスラーム法に則って屠畜されていない肉やアルコール飲料を口にすることは許されておらず、帰国当時の日本のスーパーには、私が食べられるお肉はありませんでした。そこで、スーパーにムスリムがいつでも安心して食材を選べるハラールコーナーを作りたいと思い、ハラールの整備に取りかかりました」

彼女は、正しいイスラムの知識やハラールを伝える賛同者を募り、2010年に日本ハラール協会を設立した。マレーシア・イスラム開発局(JAKIM)から講師団を招き、協会役員らと共に国際基準に適合したハラール認証団体の役割と世界で通用するハラール認証を学んだ。ハラールはと畜、食品添加物、健康食品含など食品製造を始め、化粧品、医薬品など多岐に及ぶ。それらを教材にまとめ、現在まで東京と大阪で交互に、ハラールに興味を持つ人びとや自社製品をハラール化したい企業向けに毎月二日間にわたる講習会を開催している。

2012年、日本ハラール協会はJAKIMから相互承認され、同協会が認証した日本製品がマレーシアに輸出できるようになった。例えば、日本の伝統調味料である味噌や醤油の場合、製造過程で発生するわずかなアルコールが含まれるため、ハラール認証が難しかった。彼女はその作り方や成分表などをJAKIMに提出し、「自然発酵による自生アルコールは不浄なものとみなさない」として認められ、輸出が可能になった。また、輸出ばかりではなく、日本在住のムスリムや旅行者らもハラール認証マークを確認して、安心して購入できる商品が増え始めている。

「将来、外国人と共生が当たり前になりますから、日本の子供たちにもイスラムに関心を持って欲しいと思います。彼らが成長した時、多様な人や文化が共生するための基盤整備に少しでも貢献したい。そんな責任を感じています」と語るレモンさん。

同協会は、小学校、高校、大学などを訪問して生徒たちにムスリムの生活を伝え、また他の宗教の信者らを招いて交流会を開くなど、多様なきっかけ作りに励んでいる。ハラールを巡るレモンさんの思いと協会の活動は、単にムスリムのためだけのものではなく、日本の多文化共生を豊かなものにする意味でも重要であることは言うまでもない。