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Highlighting JAPAN

日越を結ぶ外国人材

この10年余り継続的にベトナム人を技術者として採用してきた精密機械加工を手掛ける会社がある。ここでは、単なる人手ではなく人材として育成してきたことで、同社は「日越のビジネスモデル」として注目を集めている。

埼玉県入間市に本社を置く株式会社小金井精機製作所は、従業員270人余りの企業である。1943年の創業以来、常に時代の最先端をゆく技術を取り入れ、自動車やオートバイや航空機、更にはF1などのモータースポーツに欠かせない精密部品を数多くのメーカーに供給してきた。小金井精機製作所は、その高い技術力と共に、近年、外国人材の活用でも注目を集めている。同社のものづくりの現場を支える外国人技術者について、代表取締役社長の鴨下祐介さんに話を聞いた。

「きっかけは2007年頃のことでした。ベトナムでは理系の学生は就職する機会が少ないという話を知人から聞き、先代の社長(父・礼二郎氏、現在同社会長)が現地の大学に出向いてベトナム人学生を採用したのが始まりでした。当時は今ほど人手不足が深刻ではありませんでした。しかし、近い将来には若い働き手が不足することが確実視されていましたので、まずは試しにというつもりでベトナム人を採用してみたというわけですよ」

 鴨下さんによると、ベトナム人は真面目で穏やかで、日本人社員の中に溶け込みやすい。さらに彼らは日本企業への憧れが強く、忍耐強く仕事に取り組んでくれたと言う。また、彼らの口コミで、日本での生活や小金井精機の社風などがベトナム人の後輩たちに広り、ベトナム人学生を継続的に採用することができるようになった。現在では同社の技術系社員240人のうち40人がベトナム人社員である。

「外国人を雇うに当たり、何か特別なことをしているわけではありません。基本的に業務内容はもちろん、給与や福利厚生などの待遇も、日本人と全く同じです。実際の現場ではコミュニケーションの問題など苦労もあったでしょうが、経営者としてはごく普通のことを普通にやっているだけなんです」

 同社は、2014年12月、ベトナムの首都ハノイに現地法人KOGANEI VIETNAM CO., LTD.を設立したが、その理由も興味深い。

「会社のプログラミング部門の主力になっていた2人のベトナム人が、家庭の事情で帰国しなければならなくなってしまったのです。その時、彼らを何とか引き留めることはできないかと考え、作ったのがハノイの子会社だったのです」

 現在、ハノイには日本から帰国した2人を含む7人のスタッフが在籍し、製品開発における重要な役割を担っているばかりでなく、ベトナム人学生の新規採用、社員教育や育成の面でも欠かせない拠点になっていると言う。

 2018年5月、こうした実績が認められ、同社は経済産業省の「高度外国人材活躍企業50社」の事例集に取り上げられた。同じ頃、国賓として来日した故チャン・ダイ・クアンベトナム国家主席が同社の前橋工場を視察に訪れている。この時クアン国家主席は日本人と共に高品質な部品製造に取り組むベトナム人従業員の姿に感銘し、「日越交流のモデルとなって頑張ってほしい」という激励の言葉を贈っている。

「人手不足を補うためだけに、外国人を雇ってきたのではありません。本当に企業の力になってもらうため、優秀なベトナムの学生を受け入れ、育て続けてきたのです」

小金井精機の外国人材の教育や育成は、国家間をつなぎ、地域や世界の発展モデルとなっている。