Home > Highlighting JAPAN > Highlighting Japan June 2019 > 多文化共生

Highlighting JAPAN

福岡のインキュベーターが夢の実現を支援する

九州北部の海沿いの都市、福岡県福岡市では、同市が提供するビジネス支援策と補助金によって国内外から起業家を呼び込んでいる。

福岡市は2014年5月に国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」に指定され、外国人起業家に対し、通常の在留資格の要件を緩和する「スタートアップビザ」の制度や多様な創業支援補助を提供する制度が整えられた。

加えて福岡市はアジア主要都市に近く、世界に開かれた都市として知られていることもあいまって、今日、内外の創業を支援する重要なインキュベーターの一つとして注目を集めている。

そこで創業した一つに、リー・シャオピン博士の新構想をもとにした、ニューロケア・インスティテュート・ジャパンがある。

リー博士は、ニューロエンジニアリング分野1のパイオニアである。シンガポール国立大学の教授だったリー博士は、これまでにこの分野において400件を超える査読付き学術論文を発表している。その中に、2014年11月4日にNature出版グループ(Nature Research)が発行するオンライン科学学術誌、Nature Scientific Reports誌に掲載された、(体を傷つけない)非接触、非侵襲的検査による、脳神経伝達物質活動の(1)検出及び(2)(脳神経伝達物質の)調節を行う2つの画期的な技術開発の発表報告がある。商品化されれば、これらの安全な技術によって不眠症を始め様々な健康問題の解決法を提案できるだろう、とリー博士は考えている。

リー博士が最初に発売を目指す製品が、日本製造のニューラルICチップを取り付けた「Power Dreaming(睡眠誘導機器)」である。これは脳神経伝達物質の活動を調整する機器であり、枕の下に入れて作動させると睡眠を促すことができる。不眠症に苦しみ、睡眠薬を服用する世界中の何百万人もの人々にとって、この睡眠誘導機器は人生を一変させる可能性がある。さらに、より長く、より深い睡眠を誘発することにより、この機器は、脳の神経細胞を効率的にリフレッシュさせるよう設計されており、睡眠後の覚醒感を高める。

このコア技術のビジネス化のために、リー博士と博士の妻であるシャー・チェン博士が2016年にニューロケア・インスティテュート・シンガポールを創業し、翌年、福岡にニューロケア・インスティテュート・ジャパンを設立した。

2016年9月、九州大学のかつての同僚に会うため、大学のある福岡に向かう機上で、博士夫妻はたまたまFukuoka Growth Next(FGN)に関する新聞記事を目にした。FGNは、スタートアップ企業の育成とその成長促進を目的とする施設、プログラム、そして支援者を提供する福岡市の取組である。この偶然によって、リー博士の夢は実を結ぼうとしている。

「ちょうど、スーツケースの中にPower Dreamingがあり、空港から記事にあった福岡市スタートアップカフェに直接向かいました」とリー博士は言う。そして「午後5時にカフェに到着してから2時間のうちに、スタッフが私たちのスタートアップビザや医療ビジネスに必要な証明申請などの手続きを支援してくれたのです。スタッフのお陰でオフィスも見つかりました。素晴らしいサポートが決め手となり、福岡に私たちの会社を設立しました」とリー博士は言う。

特にFGNは、福岡市の立地交付金制度(外国及び外資系企業向け)によるオフィス賃借助成、福岡市在住者の雇用助成、また医薬品医療機器総合機構(PMDA)による同社製品の認証支援相談などを紹介した。また、福岡市はスタートアップ法人減税も実施している。リー博士夫妻は、ちょうど一週間後にスタートアップビザを受け取り、そして2017年5月にニューロケア・インスティテュート・ジャパンを設立したのだった。

また、近い将来、リー博士はアルツハイマー病、てんかん、失読症を含む他の健康管理や、麻酔下の患者が感じる痛みのモニタリングにも自らのコア技術を応用する計画であると言う。

「これらの技術を使った製品は、きっとニューラル産業という、まったく新しい産業分野を生み出すでしょう」と博士は考えている。

海外の創業者を惹きつける福岡市の努力は、世界に開かれた国際都市に相応しく、シリコンバレーのようなイノベーションセンターになる可能性を秘めている。


(注)
1 工学技術を利用して脳神経系の現象解明を目指す研究領域