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Highlighting JAPAN

みんなが集う多国籍ランチカフェ

2019年4月、大阪府箕面市にある、日替わりで外国人シェフが母国料理を近隣住民に振る舞う「コムカフェ」を訪ねた。不慣れな土地で生きる外国人と地元住民が多国籍料理を通じ笑顔で触れ合う姿がそこにはあった。

大阪府北部の閑静な住宅街の一角に、「箕面市立多文化交流センター」がある。センターの1階には「箕面市立小野原図書館」のほか、オープンとともに営業を開始した「comm cafe(コムカフェ)」がある。火曜~土曜のランチタイムには、14か国24名ほどの外国人市民が日替わりで“シェフ”を務め、世界の家庭料理を提供している。

利用者の多くを占めるのは近隣の住民である。長年、図書館を要望していたこの地区に、(公財)箕面市国際交流協会が指定管理する「多文化交流センター」が新設されることに戸惑いの声もあったというが、カフェにはオープン以来、年間3万人を超える来客があるという。

この日の担当は、ロシア人のナタリア・ミハイレンコさん。メイン・メニューは、豚肉にジャガイモと玉ねぎを重ねてじっくりとオーブンで焼いた『船長さんのお肉』である。

「昔は肉が貴重で、偉い人しか食べられない、という意味で『船長さんの』と名付けられました。でも今、私の故郷のウラジオストックでは、どの家庭でも作る料理です」とナタリアさんは説明する。

多文化交流センターの館長で、カフェスタッフとして時折厨房にも立つ岩城あすかさんは「コムカフェでは、世界を旅するように各国の料理が味わえますが、『今日は○○の国です』と国旗を掲げるようなことはしません。シェフを1人の個人として見てほしいからです」と語る。明るい日差しが差し込むように作られたカフェは開放的で、客席からはキッチンカウンター越しにシェフが料理する様子がよく見えるようになっている。

人口約13万5千人の箕面市は、約2800人が外国人で、その出身国は100か国に上る。この地域で長年、多言語相談員を務めてきた韓国人のチェ・ソンジャさんは、これまでたくさんの外国人女性の悩みを聞いてきた。

「日本人と結婚したり、配偶者の仕事で日本に移住してきた女性は、地域社会から孤立しがちです。言葉もあまり通じず周りになじめないでいるうちに、辛く寂しい思いを抱え込んでしまいます」とチェさんは言う。

そんな女性たちのために、社会と接点を持ちながら自分らしく居られるようにと、チェさんが考えたのが、母国の料理を作って地域の人たちに提供することだった。2010年にその試みが始まり、年に数回、不定期にコミュニティ・カフェを開催するようになった。そして2013年、岩城さんは「多文化交流センター」が新設される際、カフェを常設することを提案し、コムカフェが誕生した。

カフェは「ワンデイ・シェフシステム」で運営されている。その日を担当するシェフは、メニューの考案から材料の仕入れ、調理まですべてを担い、それを運営母体である公益財団法人箕面市国際交流協会の職員と、20名程度のボランティアがシフトを組んで支えている。シェフは売上の3割を協会に払い、人件費の一部は協会が賄う。

岩城さんとチェさんは「採算を考えれば、カフェの経営は厳しいものです。ですが、慣れない土地で自分がいる意義を見失った人たちが、自分にできることをして、自尊感情を回復し、生きる活力を得ていく。コムカフェにはその力があるんです」と言う。

それぞれ違う文化背景を持った人が集まるコムカフェでは、日本の飲食店と同じ接客方法を押し付けることはできない。例えば、日本のお店では、客のグラスが空になると気を利かせて水を注ぎに来るが、外国人は「必要なら呼ぶから」と、過剰な接客を不快に感じる場合もある。時に摩擦があっても、働く人だけでなく客も含めて対話し、多文化共生の現場ならではの「コムカフェ流」を模索しながら、ひとつひとつ丁寧にノウハウを積み上げてきた。

カフェでは、料理の提供以外でも、世界の文化を体験できるワークショップや民族音楽ライブなど、多彩なイベントも催される。開店から6年、コムカフェは、母国を離れた人びと、そして地域の人びとが、世代も国籍も超えて交流する場に成長している。